目次
はじめに
「脂っこいものを食べた後の腹痛」「急に胃や右上のおなかが痛くなった」「食欲がなくて熱もある」――こんな症状があるとき、もしかすると「急性胆嚢炎(たんのうえん)」という病気かもしれません。
急性胆嚢炎とは、肝臓の下にある「胆嚢(たんのう)」という袋のような臓器に炎症が起こる病気です。原因の多くは「胆石(たんせき)」です。胆石が胆嚢の出口をふさいでしまうと、胆汁という消化液が胆嚢の中にたまり、圧力が上がって炎症が起こります。
この病気は、腹痛で病院を受診する患者さんのうち3〜10%がかかっているといわれ、救急外来や入院診療でもよく見られます。軽いうちに治療すれば回復しますが、進行すると胆嚢に穴が開いたり、膿がたまったり、腹膜炎や敗血症という命に関わる状態になったりすることもあるため、早めの対応がとても大切です。
胆嚢と胆汁の働きは?
胆嚢とは、肝臓の裏側にある西洋なしのような形をした袋状の臓器で、肝臓で作られた「胆汁(たんじゅう)」という液体をためておく場所です。
胆汁は脂っこい食事の消化を助ける大切な働きを持っています。食べ物が胃から腸に送られると、胆嚢はぎゅっと縮んで胆汁を腸に送り出します。胆汁は脂肪を分解しやすくすることで、体に吸収されやすくしてくれます。
胆嚢は必要に応じて胆汁を濃くし、必要なときに送り出す「貯蔵タンク」のような存在です。
急性胆嚢炎の原因は?

急性胆嚢炎のほとんどは「胆石」が原因です。胆石とは、胆汁の成分がかたまってできた石のようなものです。日本人の10%程度が胆石を持っているといわれますが、症状が出る人は少数です。
胆石が胆嚢の出口をふさいでしまうと、胆汁がうまく流れずにたまり、胆嚢が腫れて炎症を起こします。これが急性胆嚢炎です。
また、まれに胆石以外でも、胆管に入っているステントの影響や、血の流れが悪くなること、薬の副作用などでも胆嚢炎が起きることがあります。
急性胆嚢炎の症状は?
急性胆嚢炎でよく見られる症状は
- 右の脇腹からみぞおちの痛み(右季肋部痛)
- 吐き気・嘔吐
- 発熱
- 食欲不振やだるさ(高齢者では特に目立ちます)
とくに注意が必要なのは、高齢の方の場合、「おなかが痛い」とはっきり言わずに「なんとなく食欲がない」「だるいだけ」といった曖昧な訴えがある場合です。見逃さないように、注意深い診察が必要になります。
急性胆嚢炎の検査は?
診断には、血液検査と画像検査(超音波、CT、MRIなど)を行います。
腹部の超音波が診断に有用です。胆石もわかりやすいです。ただし、絶食していると胆嚢が自然に大きくなることもあり、腫れだけでは判断できなく、他の疾患の除外も必要であり、他の所見と組み合わせて診断します。
CTも有用ですが超音波ほどは診断力は高くなく、石がカルシウムを含んでいるとCTで写りますが、コレステロールだけでできた石はCTに映らないため、超音波やMRIを併用することもあります。

急性胆嚢炎に似てるけど違う病気「急性胆管炎」
急性胆嚢炎と似た病気に「急性胆管炎(たんかんえん)」があります。これは胆汁の通り道(胆管)で感染が起きる病気です。
胆管炎では「黄疸(肌や白目が黄色くなる)」「肝臓の数値の異常」「寒気を伴う高熱」などが目立ち、必ずしもお腹の痛みがあるとは限りません。
両者は合併して起こることもあり、実際の診察では慎重な判断が必要になります。
急性胆嚢炎の治療は?
治療は、症状の重さに応じて次のように分けられます。
- 軽症の場合
抗菌薬(点滴)で炎症を抑え、元気があれば1週間以内に手術(腹腔鏡で胆嚢をとる)が勧められます。 - 中等症の場合
抗菌薬に加え、元気があれば1週間以内に手術。胆嚢にチューブを入れて中の胆汁を出す「ドレナージ」が必要になることもあります。 - 重症の場合
集中治療室での全身管理を行いながら、早急に胆嚢ドレナージを行う必要があります。
手術ができない場合でも、胆汁を外に出す処置で改善が見られれば、あらためて体調のよい時期に手術を検討します。再発が多いため、胆嚢をとる手術が根本的な治療になります。
手術の予約がいっぱいで緊急手術の環境が整わない大学病院や夜間の市中病院などではドレナージが選択されることがあります。
急性胆嚢炎のドレナージってどういうもの?
「ドレナージ」とは、胆嚢にたまった胆汁や膿を体の外に出す処置のことです。以下の方法があります
① 経皮経肝胆嚢ドレナージ(PTGBD)
PTGBDは、手術のリスクが高い急性胆嚢炎の患者さんに対して標準的に行われる方法です。超音波で確認しながら皮膚と肝臓を通して胆嚢に針を刺し、チューブを入れて胆汁を体の外に出します。安全性と効果が確認されている方法ですが、チューブが体の外に出ている状態(外瘻)になるため、日常生活で少し不便に感じることがあります。
② 内視鏡下胆嚢ドレナージ
ⅰ)内視鏡的経乳頭的胆嚢ドレナージ(ETGBD)
十二指腸の乳頭部(胆汁や膵液が流れ出る部分)から内視鏡を使って胆管を通し、胆嚢にステントを入れる方法です。出血のリスクが高い方や、お腹にチューブを出すことが難しい場合に行われます。ステントの種類によって、鼻から胆汁を出す「経鼻胆嚢ドレナージ(ENGBD)」と、胆汁を消化管に流す「胆嚢ステント留置術(EGBS)」があります。
ⅱ)超音波内視鏡下胆嚢ドレナージ(EUS-GBD)
内視鏡に付いた超音波で胆嚢を確認し、胃や十二指腸などの消化管から胆嚢に直接ステントを入れる方法です。お腹の外にチューブが出ないのが特徴で、手術が難しい方にも有用とされています。専門的な設備や技術が必要です。
③ 経皮経肝胆嚢吸引穿刺法(PTGBA)
胆嚢に針を刺して胆汁を吸い出す方法です。チューブを留置せず、その場で吸引するため外瘻にはなりません。ただし、胆汁が濃かったり膿がたまっていたりする場合には、十分に排出できないことがあります。:
まとめ
急性胆嚢炎は、早く見つけて治療すれば十分回復できる病気です。ただし、重症化すると命にかかわることもあるため、「胃や右上のおなかの痛み」「吐き気や発熱」「食欲がない」などの症状があるときは、早めに病院を受診しましょう。
自分の体調に合った治療を受け、再発防止のための手術も含めて、医師としっかり相談していくことが大切です。
石井優
資格
日本内科学会:認定内科医・総合内科専門医・指導医
日本消化器病学会:専門医・指導医
日本消化器内視鏡学会:専門医・指導医
日本肝臓学会:専門医
日本腹部救急医学会:教育医
日本膵臓学会:認定指導医
日本胆道学会:認定指導医
がん等の診療に携わる医師等に対する緩和ケア研修終了
医学博士
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