はじめに
今回は血糖を上げない食事についてお話しします。
糖尿病は薬を伴わない治療として食事療法と運動療法が重要です。他には生活習慣改善(肥満改善、禁煙、睡眠など)・自己啓発支援などがあります。
糖尿病の食事は、カロリー設定(年齢、身長、活動量などから)、バランスのよい食事、食べる順番と夜遅い食事摂取の回避、節酒、その他(年齢や伴う病気によって食事内容の変更など)が知られています。
ですが、糖尿病の食事療法では、「何を食べるか」と「同じくらいどう食べるか」が重要だと分かってきました。今日は、最新の研究や日本のガイドラインを踏まえて、明日から実践できる「血糖を上げない食べ方」を解説します。
糖尿病とは?
糖尿病は血液中のブドウ糖が慢性的に高くなる病気で、主にインスリンの分泌がほとんどない「1型」と、分泌不足や効きにくさが背景にある「2型」に分かれ、特に2型は生活習慣や加齢、遺伝が関係します。
初期は自覚症状が乏しいことが多く、放置すると神経障害によるしびれや感覚低下、網膜症による視力障害や失明、腎症による腎機能低下や透析の必要性、大血管障害による心筋梗塞や脳卒中、足の潰瘍や切断につながる足病変など全身の血管や臓器に深刻な合併症を引き起こします。
一方、定期検査や血糖管理、食事・運動・薬の適切な組み合わせで進行を抑えられるため、定期的な検査と日々の生活習慣の見直しが重要です。
食後の血糖値が大事な理由
糖尿病治療というと HbA1c がよく用いられます。しかし最近は、食後の急激な血糖上昇が動脈硬化や心筋梗塞・脳卒中のリスクを高めることが明らかになっています。
健康な人は食事をするとすぐにインスリンが働き、血糖はゆっくり上がってすぐ下がります。しかし糖尿病の方では、インスリンの出が遅かったり効きが弱かったりするため、食後に血糖値が急上昇し、長時間高い状態が続くのです。
この「血糖の急上昇」を抑えることが、合併症を防ぐ鍵になります。
あなたの「1日の適正カロリー」の目安を知ろう
では、実際に1日どれくらいのエネルギー(カロリー)を摂ればよいのでしょうか。
現在の糖尿病診療ガイドラインでは、年齢に応じた「目標体重」をもとに必要なエネルギー量を計算します。
特に65歳以上の方では、痩せすぎによる筋力低下(フレイル・サルコペニア)を防ぐため、若い頃よりやや高めの体重を維持することが推奨されています。
【ステップ1】目標体重を計算する
65歳未満:身長(m) × 身長(m) × 22
65歳以上:身長(m) × 身長(m) × 22~25
※65歳以上では、健康状態や筋肉量、栄養状態などを考慮し、この範囲で個別に目標体重を設定します。
【ステップ2】身体活動量を掛ける
軽い身体活動(デスクワーク中心):25~30 kcal/kg
普通の身体活動(立ち仕事や家事が多い):30~35 kcal/kg
重い身体活動(力仕事や活発な運動):35 kcal/kg以上
【計算例】60歳・身長160cm・デスクワーク中心の場合
目標体重:1.6 × 1.6 × 22 = 約56kg
1日のエネルギー量:56kg × 25~30 = 約1,400~1,700 kcal
※この数値はあくまで目安です。実際には体重の変化、血糖値、合併症の有無、筋肉量などを考慮しながら調整します。
栄養バランスの新しい考え方

これまでの糖尿病の食事療法では、「炭水化物50〜60%、タンパク質13〜20%、脂質20〜30%」という厳密な栄養比率が一律に推奨されていました。
しかし、最新のガイドラインでは「全員に共通する理想的な栄養比率はなく、一人ひとりに合わせる(個別化)」という考え方に変わってきています。年齢、日々の活動量、筋肉量、そして腎臓の状態などによって最適なバランスは異なるため、極端な糖質制限などは避け、「安全に一生続けられるバランス」を見つけることが目標とされています。
便利な「ワンプレート法」
毎食カロリーやパーセントを計算するのは大変で続かないという方もいると思います。
そこで実践しやすいのが、アメリカ糖尿病学会(ADA)なども推奨している「ワンプレート法(お皿の割合)」という視覚的なアプローチです。
お弁当箱や丸いお皿を思い浮かべていただき、以下の割合になるように盛り付けるだけで、自然と理想的な栄養バランスが整います。
お皿の半分(50%):野菜・海藻・きのこ類
たっぷりのおかずで食物繊維をしっかり摂ることで、食後の血糖値の急上昇を防ぎます。
お皿の4分の1(25%):メインのおかず(肉・魚・卵・大豆製品)
筋肉を維持するための大切なたんぱく質です。
お皿の4分の1(25%):ご飯・パン・麺類(炭水化物)
炭水化物は決して「悪」ではありません。適量をこのスペースに収めるようにします。
定食屋さんやコンビニで食事を選ぶ際も、頭の中でこの「お皿の面積」をイメージするだけで、難しく考えずにバランスを整えることができます。毎日のことだからこそ、数字に縛られすぎず、見た目で大まかなバランスを掴むことが長続きの秘訣です。
野菜から食べるだけで血糖値に影響

一番取り組みやすく、効果がしっかり分かっている方法が 「野菜から食べ始める」 ことです。
知ってるよと思われるかもしれませんが、実際にやり方が崩れている方が外来では多く見られます。関西電力病院の研究などで、以下のポイントを守ると、食後血糖を大きく抑えられることが示されています。
① 野菜・海藻・きのこ類を最初に

食物繊維が糖の吸収をゆっくりにし、インスリンの働きを助けるホルモン(インクレチン)も増えます。
② 次に肉・魚・卵・大豆製品などのたんぱく質

ここが重要です。野菜を少し食べたらすぐご飯になると効果が不十分です。野菜がない時は先にタンパク質を食べても効果があります。
③ 最後にご飯・パン・麺などの炭水化物

順番を変えるだけで、血糖の上がり方が明らかに違ってきます。炭水化物に入るまでの時間が重要です。
④ 野菜を食べ始めてから炭水化物まで少なくとも5分以上(理想は15分)
理想は15分です。難しければ「おかずだけで5分」でも十分効果があります。
糖質ゼロにしなくても大丈夫
最近は糖質制限が話題ですが、過度に制限すると高齢者では筋肉量低下やフレイル(虚弱)につながることがあります。ガイドラインでも糖質制限は短期的にはHbA1cが低下するが、長期的には効果や安全性は明確でないと報告されています。医師としては、「糖質を減らしすぎる」のではなく、「質を選ぶ」 ことをおすすめします。
ここで目安になるのが GI値(グリセミック・インデックス)。血糖を上げやすいかどうかの指標です。
血糖が上がりやすい「白い糖質」(高GI)
白米、食パン、うどん、甘い菓子など
血糖が上がりにくい「茶色い糖質」(低GI)
玄米、雑穀米、全粒粉パン、そば(十割や二八)、オートミールなど
白米を玄米に変えるなどの小さな工夫で、数値がじわりと改善する方をみかけます。
玄米の健康効果はこちらにも記載しています。
がんばっているのに逆効果になる「隠れ糖質」
① 果物のとりすぎ
果物は身体に良いものですが、果糖は吸収が早く血糖と中性脂肪を上げやすい 特徴があります。
スムージーやジュースは特に血糖が上がりやすいので注意してください。
できればスムージーではなく“固形で”食べるのがおすすめです。
② 春雨・いも類・マカロニサラダは栄養学的に野菜ではない
春雨スープやポテサラ、マカロニは実は炭水化物が多いです。
「サラダだから大丈夫」と思って食べていると、ご飯を追加で食べているのと同じ状態になることがあります。
③ 根拠のない情報
「薬をやめれば糖尿病が治る」「インスリンをやめれば良くなる」などの極端な情報は危険です。
一部の食品に血糖を緩やかにするデータはありますが、治療の代わりになるものはありません。
治療の中断は最も危険なので、必ず主治医と相談してください。
まとめ:明日から取り組める3つの習慣
糖尿病の食事は毎日完璧を目指すと続きません。
「無理なく続けられる70点」を目標に、まずはこの3つだけ意識してください。
①一口目は必ず野菜か海藻から
コンビニなら、先にわかめ入りの味噌汁やサラダから。
②白い糖質を茶色い糖質に置き換える
白米+雑穀、食パン→全粒粉、うどん→そば など。
③よく噛む習慣をつける
噛む回数が増え時間をかけると、血糖の上がり方がゆっくりになります。
食事は本来「楽しむもの」です。
「これもダメ」と我慢ばかりするのではなく、食べ方を工夫して血糖をコントロールできるという前向きな感覚を持ってもらえたら嬉しいです。
一緒に無理なく続けていきましょう。
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書いた人
石井優
資格
日本内科学会:認定内科医・総合内科専門医・指導医
日本消化器病学会:専門医・指導医
日本消化器内視鏡学会:専門医・指導医
日本肝臓学会:専門医
日本腹部救急医学会:認定医
日本膵臓学会:認定指導医
日本胆道学会:認定指導医
がん等の診療に携わる医師等に対する緩和ケア研修終了
医学博士
いしい医院 内科・消化器内科
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