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医療豆知識

CT・胃カメラ・大腸カメラで異常なし…それでもお腹が痛い本当の原因

お腹が痛くて、大きな総合病院や大学病院を受診した。採血をして、被ばくを心配しながらCT検査も受けた。さらには、大量の下剤を飲んで辛い思いをしながら胃カメラや大腸カメラ(上下部消化管内視鏡検査)まで頑張ったのに、医師からは「特に異常はありませんね」「綺麗な腸ですよ」と言われてしまった……。

このような経験をお持ちの方は、実は非常にたくさんいらっしゃいます。 「今も痛いのに、異常がないわけがない」 「検査の日に限って痛みが治まっていて、ちゃんと調べてもらえなかった気がする」 不安を抱えたまま複数の病院を渡り歩き、最終的に「気のせいでしょう」「ストレスからくるメンタルの痛みですね」と片付けられてしまう。これは、患者さんにとって本当につらいことです。痛みというはっきりとした苦痛があるのに、医療者を含め誰にも理解してもらえない孤独感は、計り知れません。

実は、慢性的な腹痛や腹部症状で内視鏡検査などを行っても、多くの方には「器質的疾患(がんや潰瘍など、目に見える構造的な異常)」が見つからず、機能的な問題(機能性消化管疾患)に分類されることが知られています。つまり、相当数の方が「異常なし・原因不明」という診断の壁にぶつかるのです。

私自身も数年間、原因不明の腹痛・背部痛に悩まされていた時期がありました。油の多いものを取ると、腹痛と背部痛があり、採血・CT・MRI・上下部内視鏡・超音波内視鏡まで行いましたが、異常なし。同僚には「メンタルじゃないですか?」といわれ、痛いのに異常なしと言われるもどかしさや、「精神的なもの」と言われた時のやるせなさは、身をもって知っています。

今回は、消化器内科医・腹部救急教育医としての立場から、「なぜ検査で原因が分からないのか」「隠れている病気には何があるのか」、そして「痛みを解決するためにご自身でできること」を分かりやすく解説します。


検査しても腹痛の原因が分からないのはなぜ?

最新の医療機器を使っても、なぜ痛みの原因が分からないのでしょうか。それには、各検査が持つ「得意なこと」と「限界」が関係しています。

画像検査(CT)の限界:機能的な評価は難しい

CT検査は、がん(腫瘍)や臓器の腫れ、石(結石)などの「形(構造)の異常」を見つけるのが非常に得意です。しかし、CTはあくまで「静止画」です。胃腸が一時的に流れが悪いといった「一時的な器質(構造)の異常」は症状があるときに撮影しないとわからないですし、神経が過敏になっている、消化液の分泌がおかしいといった「機能(働き)の異常」は、いくら高画質なCTで撮影しても直接評価することは困難です。

内視鏡の限界:表面(粘膜)しか見えない

胃カメラや大腸カメラは、ホースの中を進みながらトンネルの内側の壁を見る検査です。つまり、観察できるのは胃腸の「一番内側の薄い皮(粘膜)」だけです。 粘膜の下にある筋肉の層の異常や、腸の「外側」で起きている問題(他の臓器との癒着など)は、内視鏡では見ることができません。

小腸:検査が難しい

さらに、胃カメラが届くのは「十二指腸」まで、大腸カメラが届くのは「小腸の出口」までです。その間に存在する全長約6メートルにも及ぶ「小腸」は、長年カメラが届かない“診断の死角”とされてきました。 現在では、「バルーン内視鏡」が登場し、小腸の観察が可能になり、小腸の病気(クローン病など)が見つかりやすくなりましたが、一般的なクリニックのスクリーニング検査では、まだ小腸は死角になりやすいのが実情です。


腹痛の仕組みには3種類ある

一言で「腹痛」と言っても、痛みの仕組み(病態)は大きく3つに分かれます。この仕組みを知ることが、原因解明のヒントになります。

内臓痛(ないぞうつう)

胃や腸がけいれんしたり、急激に伸びたりした時に感じる痛みです。お腹の中の内臓神経はざっくりとしか分布していないため、「みぞおちの辺りが、なんとなく重苦しい」「周期的にキリキリ波がある」といったように、場所がはっきりしないのが特徴です。

体性痛(たいせいつう)

内臓を包んでいる腹膜や、お腹の筋肉(腹壁)、腸を支える膜などに炎症が及んだ時の痛みです。神経が密集しているため、「ここが痛い」と指一本でピンポイントに指し示せるほど場所がはっきりと分かります。動いたり咳をしたりすると響くような鋭い激痛になります。

関連痛(かんれんつう)

内臓の痛みを伝える神経が脳に向かう途中で、別の場所の神経と混線してしまう現象です。例えば、胆のうが悪いのに「右の肩」が痛くなったり、心臓が悪いのに「下あごや歯」が痛くなったりします。脳が勘違いを起こしている状態です。

このように、お腹の痛みは神経の伝わり方が非常に複雑なため、痛い場所と本当に悪い場所が一致しないことがよくあります。


腹部救急医がまず除外する「命に関わる危険な病気」

私たち医師が救急外来やクリニックで腹痛の患者さんを診察する際、真っ先に頭に浮かべるのは「いますぐ命に関わる危険な病気(急性腹症)を見逃さないこと」です。血管が詰まったり破れたりする病気は急速に状態が悪くなります。これらは「Time is life(時間が命を決める)」の病態です。バイタル異常(意識もうろう、血圧低下、脈拍・呼吸が異様に速い・遅い、顔面蒼白)や激烈な腹痛がある際は救急車を呼ぶことをお勧めします。

  • 腹部大動脈瘤破裂・大動脈解離: お腹の太い血管が裂けたり破れたりする病気。お腹から背中にかけて引き裂かれるような激痛が突然起こります。

  • 急性心筋梗塞(特に下壁梗塞):心臓の下側(下壁)の血管が詰まるタイプの心筋梗塞では、胸痛よりも「みぞおちの激痛」や「吐き気・嘔吐」などの消化器症状が前面に出ることがあります。これは、心臓と横隔膜・上腹部の神経が関連しているためと考えられています。「ひどい胃腸炎だ」と思って消化器内科を受診する方もおり、腹痛診療で見逃してはならない疾患の一つです。

  • 上腸間膜動脈閉塞症: 腸へ栄養を送る太い血管に血栓が詰まる病気です。初期はお腹を押してもそれほど痛がらないのに、患者さん本人は七転八倒する激痛を訴えます。この「症状と診察所見のズレ」が最大の特徴で、見逃すと腸が広範囲に腐死してしまいます。

  • 消化管穿孔・絞扼性(こうやくせい)腸閉塞: 胃や腸に穴が開いたり、腸がねじれて血流が止まったりする状態。緊急手術が必要です。

  • 子宮外妊娠:受精卵が、本来着床すべき子宮内膜ではなく、卵管など子宮以外の場所に着床してしまう状態です。妊娠が進行すると着床部位が耐えきれず破裂し、お腹の中に大量出血を起こすことがあります。妊娠初期の下腹部痛や不正性器出血として始まることが多く、破裂すると突然の激痛、冷や汗、失神、血圧低下を伴うこともあります。緊急手術が必要になる命に関わる病気です。。

検査で「異常がない」と言われるとガッカリされるかもしれませんが、まずは「今日明日命を落とす危険な病気ではない」と確認できたこと自体が、医療において非常に大きな意味を持っているのです。


CTや胃カメラで見つからない「原因不明」の正体

命に関わる病気や、がん・潰瘍などの「形」の異常がない。それでも痛みが続く場合、以下のような病態が隠れている可能性が高いです。

機能性胃腸障害(FD・IBS)と腸内細菌

検査で異常がない長引く腹痛の大部分は、機能性ディスペプシア(FDや過敏性腸症候群(IBS)と診断されます。FDは胃のもたれやみぞおちの痛み、IBSは下痢や便秘を伴う腹痛を起こします。

ここで一つ、非常に重要なことをお伝えします。 医師から「ストレスが原因ですね」「心因性(メンタル)ですね」と言われ、傷ついた経験はありませんか?たしかにストレスは症状を悪化させる引き金になります。しかし、だからといって決して「気のせい」という意味ではありません。 最新の研究では、脳と腸の自律神経の連携エラー(脳腸相関の異常)や、腸内細菌叢(マイクロバイオーム)のバランスの乱れ、わずかな粘膜の炎症などが複雑に絡み合い、胃腸が「知覚過敏」を起こしているれっきとした身体の病気であることが分かっています。

女性特有の隠れた腹痛(異所性子宮内膜症など)

女性の場合、通常のCTでは捉えきれない微小な婦人科疾患が隠れていることがあります。特に異所性部子宮内膜症は、腸の表面や骨盤の奥深くに病変ができるため、一般的な超音波検査やCTでは見逃されやすく、MRIや腹腔鏡検査をしないと診断がつかないことがあります。月経周期と腹痛が連動している場合は、強く疑うサインになります。

腹壁の痛みとカーネット徴候

内臓ではなく「お腹の筋肉(腹壁)」が痛いケースです。代表的なものが前皮神経絞扼症候群(ACNES)です。腹筋の間を通り抜ける細い知覚神経が、筋肉に締め付けられて激痛が走ります。 内臓の検査を何百回やっても見つかりませんが、診察室で「カーネット徴候」というテストをすることが、強く疑うきっかけになります。患者さんに仰向けで腹筋に力を入れてもらい(頭を持ち上げる)、その状態でお腹の痛い部分を押します。内臓の病気なら腹筋がガードして痛みが減りますが、ACNESの場合は腹筋が硬くなることで神経がさらに挟まれ、痛みが強くなるのです。

皮疹が出る前の帯状疱疹(前駆痛)

お腹の右半分、あるいは左半分だけがピリピリ・チクチク痛む場合、水疱瘡のウイルスが暴れ出す「帯状疱疹」の初期症状(前駆痛)かもしれません。皮膚に特徴的な赤いブツブツ(皮疹)が出るまでの数日間は、原因不明の限局した腹痛として非常に悩ましい状態になります。

その他:腹痛の出る原因不明になりやすい病気

グルテンに対する免疫反応や過敏性によるセリアック病、慢性膵炎になる前の早期慢性膵炎、Oddi括約筋や胆のうなどの胆道系機能障害、小腸内で腸内細菌が異常増殖する小腸内細菌増殖症、消化管粘膜に好酸球が浸潤する好酸球性胃腸炎神経根が圧迫される放散痛による腹痛の放散痛胸髄神経根症食後30分〜数時間後に腹痛を伴う血管狭窄による慢性腸間膜虚血症横隔膜の靭帯が腹腔動脈を圧迫する正中弓状靭帯圧迫症候群 (MALS) 、膠原病によるループス腸炎腸管の血管に炎症が起きる血管炎 (IgA血管炎など)、入院するほど激烈な腹痛や赤い尿が特徴の急性肝性ポルフィリン症、溶結性貧血である発作性夜間ヘモグロビン尿症原因不明の腹痛を伴うことがある副腎皮質機能低下症発熱と漿膜炎(腹膜炎など)による激しい腹痛の発作を繰り返す家族性地中海熱、腸管にむくみを起こすことがある遺伝性血管性浮腫 、鉛に曝露されることで激しい腹痛を引き起こす鉛中毒心理的・社会的なストレスが背景にあり身体症状症、虚血や消化管の内圧上昇や炎症などで腹痛が起きることが多いです。


病名のつかない病気

腸管の癒着(ゆちゃく)

過去に盲腸や婦人科の手術を受けた方が、時々強い腹痛を起こしていました。内視鏡検査は腸の内側を見るものなので異常なし。しかし実際は、手術の影響で腸の外側が周囲とくっついて(癒着して)おり、狭窄によって流れが悪くなったり、腸が動くたびに引っ張られて痛んでいたのです。腸が完全に詰まる手前の段階では、CTでもはっきりと写りません。

膵液の流出障害

膵管狭窄や粘液などで膵管の膵液の流れが悪くなり、膵管の内圧が上昇すると腹痛を伴うことがあります。ステント留置を行い、膵液の流れが改善した後に、症状が改善したがいました。胆管や尿管などでも同様のことが起きると思います。

意外な原因「コーヒー」

原因不明のみぞおちの腹痛の女性患者さんがいました。あらゆる検査をしても異常なし。妊娠して、コーヒーを飲まなくなったら、痛みがなくなったとのこと。 一部の体質の人にとっては、「特定の成分」が検査には映らない激痛のトリガーになることを身をもって学んだ出来事でした。カフェインやクロロゲン酸などの成分が胃腸を過剰に刺激し、知覚過敏や痛みの引き金になることが分かっています。


原因不明の腹痛を解決するために、自分でできること

病院で「メンタルの問題」と言われても諦める必要はありません。今日からできる具体的なアプローチがあります。

お腹にガスを発生させる「FODMAP(フォドマップ)」に注意する

IBSなどの機能的な腹痛において、特定の糖質が腸内で異常発酵し、大量のガスを出して痛みを引き起こすことが知られています。これらを「高FODMAP食」と呼びます。 具体的には以下のような食材です。

  • 小麦類(パン、パスタ、うどん)

  • 特定の野菜(玉ねぎ、にんにく)

  • 乳製品(牛乳、ヨーグルトなどの乳糖)

  • 果物(りんご、すいか)

  • 豆類(納豆、大豆)

  • 人工甘味料(キシリトールなど)

「お腹に良さそう」と思って食べていたヨーグルトや納豆が、実はあなたのお腹の痛みの原因になっているかもしれません。2〜3週間だけこれらを控えてみて、症状が劇的に改善するか試してみる(低FODMAP食療法)のも一つの有効な手段です。

痛みの記録

医師の短い問診時間と、患者さんの記憶だけを頼りにする診断には限界があります。ぜひ「痛み日記」をつけて、次回の診察で見せてください。

  1. タイミングと食事: 食前か食後か。特定の食べ物(小麦、乳製品、コーヒーなど)を食べた後か。

  2. 姿勢や動き: 「前かがみで痛い」「寝返りで痛い」など。

  3. 痛みの性質と場所: 持続的か痛みに波はあるか。痛みの場所(何の臓器がある場所か判断できる)

  4. 排便や月経との関係: 便が出ると楽になるか(IBSのサイン)、月経周期と完全に一致するか(子宮内膜症のサイン)。

これらは、原因を解き明かすための鍵になります。


まとめ:「異常なし」は「病気がない」とは違う

「大きな病院でCTや内視鏡をして異常がない」と言われても、それは決して「病気ではない」「気のせいだ」という意味ではありません。画像や粘膜の形に異常がなくても、胃腸の動きの異常、腸内細菌の乱れ、神経の圧迫、微小な細胞の炎症、食事の成分など多くの場合、痛みには器械的・機能的な背景がある可能性があります。

また、検査で異常がないことは、決して無駄ではありません。「いますぐ命に関わる悪い病気ではない」という、とてもポジティブで安心できる第一歩なのです。本当に原因が不明であれば薬で症状を薬で和らげるしかありませんが、あなたに合う薬を探してもらうのも重要です。病気の初期であったためにわからなかったり、痛いときに検査することで、後日に原因がわかることもあります。

※病院で異常なしと診断されても、あとで病気が見つかる、もしくは別の病気が見つかることもあります。激烈な痛みやバイタルの異常は、重大な病気が隠れている可能性があるため、必ず医療機関を受診してください。


書いた人

石井優

資格
日本内科学会:認定内科医・総合内科専門医
日本消化器病学会:専門医・指導医
日本消化器内視鏡学会:専門医・指導医
日本肝臓学会:専門医
日本腹部救急医学会:教育医
日本膵臓学会:認定指導医
日本胆道学会:認定指導医
がん等の診療に携わる医師等に対する緩和ケア研修終了
医学博士


いしい医院 内科・消化器内科総合内科専門医・消化器病学会専門医・消化器内視鏡学会専門医・肝臓学会専門医・リウマチ専門医住所:〒140-0015 東京都品川区西大井3-6-17
電話番号:03-3771-3933
休診日:水曜、土曜午後、日曜、祝日

時間
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品川区西大井・大井・大田区大森山王エリアので内科・消化器内科・健康診断・予防接種・訪問診療などの受診をお考えの方はいしい医院をご利用ください。皆様の身近なかかりつけ医を目指しております。

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