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医療豆知識

マイクロプラスチックは人体への悪影響がある?最新医学エビデンスから医師が解説

​これまで、マイクロプラスチックといえば海の生き物が誤って食べてしまうといった環境問題として主に語られてきました。しかし近年、人間の血液や便、肺の奥深くなどからも微小なプラスチックが検出されたという報告が相次ぎ、医学的な関心が高まっています。

​メディアなどでは「現代人は毎週クレジットカード1枚分のプラスチックを摂取している」といった推計を目にすることもありますが、現在の科学界ではこの数字は過大評価であり、実際の摂取量はもっと少ないと考えられています。

​とはいえ、体内に微小なプラスチックが入り込んでいること自体は事実です。では、それは本当に私たちの健康を脅かすのでしょうか。今回は医師の視点から、最新の医学研究をもとに「現在どこまで分かっているのか」を冷静に解説し、日常でできる対策についてお話しします。

※私自身は、数年前に息子からマイクロプラスチックを、知りました。マイクロプラスチックを知った経緯についてはこちら

マイクロプラスチックとは?

マイクロプラスチックとは、直径5ミリメートル以下の微小なプラスチック粒子のことです。さらに小さい1マイクロメートル以下のものは「ナノプラスチック」と呼ばれます。

マイクロプラスチックの侵入経路は?

直径5ミリメートル以下の微小なプラスチック粒子(さらに小さいものはナノプラスチック)が体内に侵入するルートは、主に2つあると分かっています。
​1つ目は「口からの侵入(経口曝露)」です。これが最も主要な経路と考えられています。ペットボトル飲料や食品のプラスチック包装から放出された微小な粒子を飲食しているほか、実は空気中から食べ物に落ちた見えないホコリ(化学繊維など)も一緒に飲み込んでいます。
​2つ目は「呼吸による侵入(吸入曝露)」です。室内を舞う化学繊維の糸くずや、屋外で車のタイヤが削れて生じた粉塵などを、私たちは無意識に吸い込んでいます。実際、2022年の研究では、生きた人間の肺の深部(下気道)組織からプラスチックが検出されたことが報告されており、呼吸器からも体内に取り込まれていることが証明されています。

ペットボトルの水にはどの程度のプラスチック粒子がある?

ペットボトルの水に含まれるマイクロプラスチック(およびさらに微小なナノプラスチック)の量については、近年非常に精度の高いデータを示す論文が発表されています。

結論から言うと、1リットルのペットボトル水には平均して約24万個のプラスチック粒子が含まれていることが報告されています。

ナノプラスチックとペットボトルの水に関する論文

最も注目されているのは、2024年1月に米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載された、コロンビア大学とラトガース大学の共同研究チームによる論文です。

  • 含まれる量: 調査された3つの人気ブランドのボトル入り飲料水から、1リットルあたり11万個から40万個(平均約24万個)のプラスチック粒子が検出されました。これは過去の推測値の10倍〜100倍にあたる数です。

  • サイズの内訳: 検出された粒子のうち、約10%が「マイクロプラスチック(1マイクロメートル〜5ミリメートル)」で、約90%がさらに極小の「ナノプラスチック(1マイクロメートル未満)」でした。

  • プラスチックの種類: ボトル自体の素材であるPET(ポリエチレンテレフタレート)のほか、水を浄化する工程のフィルターから混入したと推測されるポリアミド(ナイロンの一種)やポリスチレンなどが確認されています。

なぜ近年になって判明したのか?

1マイクロメートル未満のナノプラスチックは極めて小さく、従来の顕微鏡や分析技術では正確に数を数えたり種類を特定したりすることが困難でした。この研究では、2つのレーザーを照射する新しい高解像度イメージング技術を開発したことで、初めてその膨大な数を計測できるようになりました。

健康への影響について(現在の見解)

カナダのコンコルディア大学が2025年に発表したレビュー論文などでも議論されていますが、ナノプラスチックはサイズが小さすぎるため、腸や肺の壁を通り抜けて血流に乗り、臓器に入り込む可能性が指摘されています。ただし、「人体にどのような具体的な健康被害をもたらすか」については、現在も世界中で研究が進められている段階です。

マイクロプラスチックの身体への影響

血管への影響

これらが人体に及ぼす影響については長年不明でしたが、2024年3月、医学誌『The New England Journal of Medicine(NEJM)』に一つの観察研究が報告されました。

この研究では、頸動脈(首の太い血管)のプラーク(コレステロールなどの塊)を取り除く手術を受けた患者さん304人を調査しました。その結果、約6割の患者さんのプラーク内から微小なプラスチックが検出されました。さらに約3年間の追跡調査において、プラークからプラスチックが検出されたグループは、検出されなかったグループに比べて、心筋梗塞や脳卒中などを発症するリスクが約4.5倍高かったことが報告されています。

これは観察研究であるため、この結果をもってプラスチックが直接の病因であると完全に断定することはできません。しかし、マイクロ・ナノプラスチックが血管内で炎症を促進し、プラークを不安定化させている可能性が示唆されています。

現時点では、「マイクロプラスチックが病気の直接原因である」と断定できる段階ではありません。しかし、慢性炎症や動脈硬化との関連を示すデータは徐々に蓄積しつつあります。

腸管バリアと基礎研究

私たちは日常的に食事や飲み物をとるため、プラスチックの主な入り口は胃や腸などの消化管になります。私は日々の診療で内視鏡を通じて患者さんの粘膜を観察していますが、目に見えない細胞レベルの領域では新たな知見が集まりつつあります。

本来、腸の粘膜細胞は「タイトジャンクション」と呼ばれる強固な結合で有害物質が血液中に侵入しないよう、バリアとしての機能を果たしています。しかし、動物実験や細胞実験では、極めて小さなナノプラスチックが腸管バリアを通過しうることが示されています。

実際、腸で吸収された物質が運ばれる先の肝臓組織からプラスチックが検出されたという報告(2022年)もあります。また、腸管内に留まったマイクロプラスチックが腸内フローラのバランスに影響を与え、潰瘍性大腸炎やクローン病といった「炎症性腸疾患(IBD)」の病態に関与する可能性についても研究が進められています。ただし、現時点では主に基礎研究段階であり、ヒトでの影響については今後の検証が必要です。

脳への影響

また、強固なバリア(血液脳関門)で守られているはずの「脳」への到達も報告されています。2024年の『JAMA Network Open』誌などの研究では、人間の脳組織(嗅球)から微小なプラスチックが検出されました。呼吸によって鼻から吸い込んだ粒子が、嗅神経を伝って直接脳に到達しているルートが示唆されています。病気との因果関係はまだ証明されていませんが、今後の研究が急がれる分野です。

プラスチックの「運び屋」としての懸念と他臓器への到達

近年問題視されているのは、プラスチック粒子そのものだけでなく、そこに含まれる可塑剤(フタル酸)やBPAなどの添加剤です。マイクロプラスチックが「運び屋」となって、これらの化学物質を体内の深部へ届けてしまう可能性が懸念されています。

また、消化管経由だけでなく、大気中に浮遊する微小な粒子を吸い込む「呼吸器」からの侵入ルートも確認されています。過去の研究では、生きた人間の肺の深部組織(下気道)からプラスチックが検出されました。さらに、生殖器(精巣など)の組織サンプルから検出されたという報告(2024年)もあり、生殖機能への影響についても研究が進められていますが、疾患との直接的な因果関係はまだ解明されていません。

日常でできる「プラスチック・デトックス」の現実的アプローチ

体内のプラスチックを排出する薬はないのか?結論から申し上げますと、現時点で体内に蓄積したマイクロプラスチックを狙って排出するような薬や医学的治療法は存在しません。

私たちが今すぐ取り組める現実的な対策は、「ゼロにする」という極端な思考に陥るのではなく、「新しい曝露量を無理なく減らす」というアプローチです。

プラスチック容器のまま電子レンジで加熱しない

加熱によって、容器由来のマイクロ・ナノプラスチックの放出量が増加することが報告されています。温める際は、耐熱ガラスや陶器のお皿に移し替える習慣をつけてください。

マイボトルを活用する

ペットボトル飲料には、製造過程やキャップ開閉の摩擦によって微小なプラスチックが含まれることがあります。日常の水分補給をステンレスやガラス製のマイボトルに変えるだけで、摂取量を効果的に減らすことができます。

古いプラスチックまな板を買い替える

包丁で傷がついたプラスチックまな板は、調理のたびに食材に破片が混ざる原因になります。定期的に新調するか、木製のまな板を使用することをお勧めします。

未来の健康を守るために

マイクロプラスチックの影響は、今日明日の健康をすぐに脅かすものではありません。現代社会においてプラスチックの利便性を完全に手放すことは不可能ですし、過度に恐れる必要もありません。私自身も毎日ペットボトルの水を飲んでいますし、車は排気ガスを出すから、禁止しようといっても難しいと思います。

大切なのは、「便利さ」と「リスク」のバランスを知ることです。電子レンジの使い方を変える、水筒を持ち歩くといった小さな選択の積み重ねが、未来の自分や家族の健康を守る第一歩となる可能性があります。

まとめ:明日から実践できるポイント

  1. お弁当や惣菜は、ガラスや陶器の器に移してからレンジで温める

  2. 日常の水分補給に水筒(マイボトル)を取り入れる

  3. 古いプラスチック製のまな板は新調するか、木製に変更する

※過度に心配しないこともとても重要です。

マイクロプラスチックが、我々の身体を害するという明確なエビデンスは現在示されてはいません。不必要に恐れる必要はないと思われますが、心配な方は、無理なくご自身の生活に取り入れてみてください。


【主な出典・参考文献】

  • Marfella R, et al. “Microplastics and Nanoplastics in Atheromas and Cardiovascular Events.” The New England Journal of Medicine, 2024.

  • Campanale C, et al. “A Detailed Review Study on Potential Effects of Microplastics and Additives of Concern on Human Health.” International Journal of Environmental Research and Public Health, 2020.

  • Zheng Y, et al. “Exposure to polyethylene microplastics exacerbate inflammatory bowel disease tightly associated with intestinal gut microflora.” Ecotoxicology and Environmental Safety, 2024.

  • Horvatits T, et al. “MMicroplastics detected in cirrhotic liver tissue” eBioMedicine, 2022.

  • Hu J, et al. “Microplastic presence in dog and human testis and its potential association with sperm count and weights of testis and epididymis.” Toxicological Sciences, 2024.

  • Jenner LC, et al. “Detection of microplastics in human lung tissue using μFTIR spectroscopy.” Science of The Total Environment, 2022.
  • Qian N, et al. “Rapid single-particle chemical imaging of nanoplastics by SRS microscopy.” Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS), 2024.

書いた人

石井優

資格
日本内科学会:認定内科医・総合内科専門医
日本消化器病学会:専門医・指導医
日本消化器内視鏡学会:専門医・指導医
日本肝臓学会:専門医
日本腹部救急医学会:教育医
日本膵臓学会:認定指導医
日本胆道学会:認定指導医
がん等の診療に携わる医師等に対する緩和ケア研修終了
医学博士


いしい医院 内科・消化器内科総合内科専門医・消化器病学会専門医・消化器内視鏡学会専門医・肝臓学会専門医・リウマチ専門医住所:〒140-0015 東京都品川区西大井3-6-17
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