「健康診断で肝障害を指摘されました。エコーでは脂肪肝。お酒は一滴も飲まないのに、、、。」
日々の診療をしていると、本当に多くの方からこのようなご質問を受けます。健診結果を手に、不安な気持ちでクリニックへいらっしゃるお気持ちはよく分かります。
実は現在、日本の成人の「約3人に1人(約30%)」が脂肪肝を抱えていると分かっています。もはや一部の人だけの病気ではなく、誰もがなり得る“国民病”なのです。
さらに今、世界の肝臓専門医の間で、この脂肪肝の常識が大きく変わっています。2026年3月に、日本消化器病学会・日本肝臓学会から6年ぶりとなる新しい『MASLD診療ガイドライン2026(改訂第3版)』が発表されました。これまで「脂肪肝はお酒の飲み過ぎが原因」というイメージが強かったかもしれませんが、その考え方は過去のものになりつつあります。
今回は、消化器内科専門医の視点から、最新の医学的知見をもとに「本当に正しい脂肪肝の治し方」を分かりやすく解説します。
目次
脂肪肝とは?2026年ガイドラインで変わった新常識
今回のガイドラインにおける最大のポイントは、病名とその捉え方が変わったことです。
従来は「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」という名称でしたが、現在は“代謝異常”を中心に捉える「MASLD(マスルド:代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)」という概念へ移行しています。 お酒を飲む・飲まないに関わらず、エコー検査などで脂肪肝が確認された上で、以下の「5つの心代謝リスク因子」のうち、1つでも当てはまれば「MASLD」と診断されます。
① 体重・腹囲: BMI(体格指数)が23以上(アジア人基準)、または腹囲が男性90cm以上・女性80cm以上
② 血糖値: 空腹時血糖が100mg/dL以上、HbA1cが5.7%以上、または2型糖尿病の治療中
③ 血圧: 血圧が130/85 mmHg以上、または高血圧の治療中
④ 中性脂肪: トリグリセリド(中性脂肪)が150mg/dL以上、または脂質低下薬を内服中
⑤ HDLコレステロール: 善玉(HDL)コレステロールが男性40mg/dL未満・女性50mg/dL未満、または治療中
MASLDは心血管・脳血管イベントのリスクが上昇することが知られています。そのため、脂肪肝を単なる肝臓の病気ではなく、全身のメタボリックシンドロームの一部として治療していこうという方針転換です。
また、「少しお酒を飲むけれど、メタボの傾向もある」という方々に対して、「MetALD(メタルド)」という新しい分類もできました。男性では週210〜420g、女性では週140〜350g程度のアルコール摂取(例えばビール換算で1日1〜2缶程度)があり、かつ代謝異常の基準を満たすケースです。メタボとお酒、両方が肝臓にダメージを与えている状態をしっかり見つけて、ケアしていくことが推奨されています。
脂肪肝の原因と症状|なぜお酒を飲まなくても脂肪肝になるの?
原因の多くは、「エネルギーの過剰摂取」と「運動不足」の積み重ねです。特に現代人に多いのが、糖質や脂質の摂りすぎです。消費しきれなかったエネルギーは中性脂肪に形を変え、肝臓にどんどん蓄積されていきます。脂肪肝とは、まさにこの「肝臓に中性脂肪が過剰に蓄積した状態」を指します。
ここで一番厄介なのが「症状」です。肝臓は沈黙の臓器と呼ばれており、脂肪がたまっても、それが原因でMASH(マッシュ:代謝機能障害関連脂肪肝炎)と呼ばれる肝臓の炎症を起こしても、痛みもだるさもほとんどありません。自覚症状が出たときには、すでに肝硬変や肝臓がんまで進行していることが少なくないのです。
そのため、私たち医師は日々の診療で、血液検査の数値(年齢・AST・ALT・血小板数)から計算する「FIB-4 index」という指標を確認したり、超音波検査で肝臓の硬さ(線維化)を測ったりして、肝臓がSOSを出していないかを客観的に見極めています。当院では肝臓の硬さを計測できるエラストグラフィーが使用可能です。
基本的な治療方針(薬と生活習慣)
治療の絶対的な土台は「食事と運動による減量」です。
ガイドラインでは、「現在の体重から7〜10%の減量」が強く推奨されています。体重70kgの方なら、約5kgの減量です。5%の減量でも肝内脂肪は減り始めますが、7%を超えると、肝臓の細胞の炎症が治まり、硬くなった肝臓の組織も柔らかく改善していくことが分かっています。
近年、糖尿病の治療薬である「GLP-1受容体作動薬」や「SGLT2阻害薬」が、体重減少を助け、肝臓の数値を改善する選択肢として位置づけられるようになりました。しかし、脂肪肝に対する保険適応はありません。さらに重度の脂肪肝炎(MASH)に対しては、新しい薬剤(レスメチロムなど)の開発も進んでいます。しかし、依然として治療の基本は生活習慣の改善であり、お薬はあくまでそのサポート役として考えることが大切です。
脂肪肝に良い食事・悪い食事|避けたい飲み物や食べ物とは?(医学的エビデンスに基づく)
では、具体的に何をどう食べれば良いのでしょうか。ネット上には「肝臓の毒素を出す」と謳うサプリメントやお茶などの情報が溢れていますが、医学的な根拠が乏しいものもあり、かえって肝臓に負担をかける危険もあるため注意が必要です。
世界中の質の高い研究で、肝臓に良いと支持されている食事法は以下の通りです。
地中海食をとりいれる
オリーブオイル、魚類、野菜、大豆製品、全粒穀物(玄米など)をしっかり食べ、牛や豚の脂身、加工肉(ウインナーやベーコン)を控える食事スタイルです。厳しいカロリー制限をしなくても、この「地中海食」を意識するだけで肝臓の脂肪が減少することが、複数の臨床試験で確認されています。肉の脂(飽和脂肪酸)を、魚やオリーブオイルの脂(不飽和脂肪酸)に置き換えることがポイントです。
果糖(フルクトース)の摂りすぎに注意する
果糖を多く含む清涼飲料水の習慣的摂取は、肝脂肪の蓄積や線維化進展との関連が報告されています。甘いジュースやスポーツドリンクには「果糖ブドウ糖液糖」がたっぷり含まれており、カロリー過多やインスリン抵抗性などの複合的な要因と相まって肝臓に負担をかけます。喉が渇いたら、ジュースではなく水やお茶を選ぶようにしてみてください。
ブラックコーヒーの効果
習慣的なコーヒーの摂取(1日2〜3杯程度)は、肝線維化や肝細胞がんリスク低下との関連が報告されています。コーヒーに含まれる抗酸化物質などが良い影響を与えていると考えられています。ただし、砂糖や多量のミルクを入れてしまってはエネルギー過多になりますので、ブラックか微糖で楽しむのがおすすめです。
生活の注意点(運動と睡眠)
食事に加えて、運動も欠かせません。ウォーキングなどの有酸素運動でも、筋トレなどのレジスタンス運動でも、どちらも肝臓の脂肪を減らす効果が確認されています。 大切なのは「無理なく続けること」です。息が少し弾む程度の運動を週に合計150分(1日20〜30分程度)行うのが理想的です。 また、質の高い睡眠をとり、いびきがひどい場合は「睡眠時無呼吸症候群」が隠れていないかチェックすることも、全身の代謝を整えるうえで非常に大切になってきます。
よくある質問(FAQ)
Q. 脂肪肝は自然に治りますか?
A. 軽度の脂肪蓄積であれば、食事や運動などの生活習慣を改善することで正常に戻る可能性があります。しかし、放置して炎症や線維化が進んでしまうと自然治癒は難しくなるため、早めの対策が肝心です。
Q. 症状はないのですが、脂肪肝を放置してはいけませんか?
A. 放置して炎症や線維化が進んでしまうと肝硬変や肝臓がんのリスクが上昇します。心筋梗塞や脳梗塞のリスク上昇も示唆されています。
Q. 脂肪肝でお酒は絶対ダメですか?
A. 脂肪肝がある状態でのお酒は、たとえ少量であっても肝臓への追加の負担となり、進行を早める可能性があります。特に今回のガイドラインで示された「MetALD」に該当する場合は、飲酒制限が強く推奨されます。
Q. ALTが高いだけでも受診した方がいいですか?
A. はい、ぜひ受診してください。ALT(肝臓の酵素)が高いということは、肝細胞が壊れているサインです。痛みはなくても脂肪肝や慢性肝炎が隠れていることがあり、放置すると将来の肝硬変リスクにつながります。
Q. 脂肪肝に良い飲み物は?
A. 水や無糖のお茶が基本です。また、エビデンスに基づくと「無糖のコーヒー」も肝臓の健康に寄与することが知られています。逆に、清涼飲料水などの甘い飲み物は控えましょう。
まとめ:明日から実践できる3つのポイント
脂肪肝は、決して放置してよいサインではありません。しかし、正しいアプローチをとれば、改善の余地が十分にある病気でもあります。明日からできるステップをまとめます。
- 飲み物を「水・お茶・ブラックコーヒー」に変える。
- 食卓のメインを「肉より魚」にし、調理にオリーブオイルを使う。
- 現在の体重から「7%の減量」を具体的な目標にする。
もし健康診断で「肝機能異常」や「脂肪肝」を指摘されたら、まずは自己流で悩まず、お近くの消化器内科をご受診ください。血液検査やエコー検査で、ご自身の肝臓が今どの状態にあるのかを正確に評価し、一緒に無理のない治療計画を立てていきましょう。
書いた人
石井優
資格
日本内科学会:認定内科医・総合内科専門医
日本消化器病学会:専門医・指導医
日本消化器内視鏡学会:専門医・指導医
日本肝臓学会:専門医
日本腹部救急医学会:教育医
日本膵臓学会:認定指導医
日本胆道学会:認定指導医
がん等の診療に携わる医師等に対する緩和ケア研修終了
医学博士
いしい医院 内科・消化器内科総合内科専門医・消化器病学会専門医・消化器内視鏡学会専門医・肝臓学会専門医・リウマチ専門医住所:〒140-0015 東京都品川区西大井3-6-17
電話番号:03-3771-3933
休診日:水曜、土曜午後、日曜、祝日
| 時間 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 |
| 9:00 ~12:30 | ○ | ○ | − | ○ | ○ | ○ | − |
| 16:00 ~18:30 | ○ | ○ | − | ○ | ○ | − | − |
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