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医療豆知識

膵癌ー治る膵癌をみつける早期診断に求められることー

はじめに

私の祖父は膵癌でなくなっています。祖父は膵癌が見つかったときには手術ができない状態でした。私が消化器内科の医局に入ったきっかけの一つになります。仕事で膵癌をみることが多く、みなさんに膵癌はどういうもので、手術して助かる膵癌をみつけるためにはどうすればいいのかをガイドラインを参照に記載します。

とても長いので、要点だけ読んでもらえればわかるようにこちらに記載しておきます。このページの要点としては、膵癌は増えてきている。膵癌は5年生存率がとても低いけれども1cm以下であれば、5年生存率が高いです。1cm以下の膵癌をみつけるために、膵癌のリスクファクターのある人に腹部の超音波で異常所見がないか調べることが早期膵癌をみつけるために重要であると言う話になります。未来に感度と特異度が高い膵癌がわかる安価なマーカーがでて実用化にいたってくれれば膵癌の早期発見に繋がると思われますが、現状では症状や血液データの異常以外に膵癌のリスクファクターのある人に腹部の超音波をすることがコストパフォーマンス的にもよく、全国でおこなわれてきています。



膵臓の役割

膵臓は主に二つの重要な機能を持っています。一つ目は消化酵素の生産で、これにより食物の消化が助けられます。二つ目はホルモンの分泌で、特に血糖値を調節するインスリンとグルカゴンが重要です。これらのホルモンは体のエネルギー利用のバランスを保つために不可欠です。

膵癌の統計

膵癌とは、膵臓に発生する悪性腫瘍のことです。膵臓は消化酵素やホルモンを産生する重要な臓器ですが、この臓器に発生したがん細胞が増殖し、腫瘍を形成するのが膵癌です。膵癌は癌罹患数(癌になった人の数)で男性6位、女性6位となっています。癌腫の4~5%でありまれな疾患ではありません。

癌罹患数

引用:がんの統計2023  公益財団法人 がん研究振興財団

また、死亡数は男性4位、女性3位、全体で4位であり死亡数の多い疾患と言えます。

死亡数

引用:がんの統計2023  公益財団法人 がん研究振興財団

膵癌は増加傾向にあります。

罹患と死亡数の年次推移

膵癌の予後

膵癌にかかってからの寿命は人それぞれ違いますが、膵癌に関する研究試験を見るとstageや状況により全生存期間(Overall Survival ;OS)や病勢の進行を止めた期間を示す無増悪生存期間(Progression Free Survival ;PFS)が記載されていることが多いです。

日本では癌に対する予後は5年生存率という記載をされることが多いです。膵癌ではstageⅠでも5年生存率が47.5%と低く、stageⅡ以降では著明に低下を認めます。進行が早く、予後が悪いと言われる理由でもあります。

引用:がんの統計2022  公益財団法人 がん研究振興財団

膵癌は1cm以下であれば5年生存率が8割を越えます。1cm以下の膵癌を見つけることが重要です。

腫瘍径別生存率

膵癌早期発見

膵癌の早期発見ですが、尾道市医師会では2007年から中核病院と連携施設が協働で、予後不良で難治癌とされてきた膵癌の早期発見を目的とした『膵癌早期診断プロジェクト(尾道方式)』を展開しています。地域連携機関で危険因子を有する症例にスクリーニングの腹部超音波を行い、膵管拡張や膵嚢胞が描出されたら中核病院に紹介し精査するというものになります。

その結果、2007年1月から2022年12月の間に、28185例の膵癌疑いの受診者から813例の膵癌を組織学的に確定しました。そのうち、Stage0に該当する膵上皮内癌が41例、Stage Iが99例と、短期間に多数の早期診断症例を診断しています。早期診断例の増加は確実に予後の改善に繋がっており、プロジェクト開始以降、5年生存率は2017年の診断症例で21.4%と大幅な改善を認めており、全国平均8.5%を大きく上回っています。

尾道方式は、現在全国50カ所以上の地域で展開が始まっており、医師会と連携施設が協働するタイプ、大学病院と関連施設が協働するタイプ、検診施設と大学病院が協働するタイプが存在しています。

引用:https://www.onomichi-med.or.jp/outline/project.php

膵癌の症状

膵癌は特異的な症状に乏しいため、多くが進行膵癌で診断されます。よって臨床症状は早期発見の指標とはなりませんが、腹痛、腰背部痛、黄疸、体重減少を認める場合や糖尿病の新規発症、増悪の場合は膵癌の可能性を考慮し検査を行うことが望ましいとされます。膵癌における既往は糖尿病が25.9%と最も多く、糖尿病診断後1~4年の膵癌リスクは1.86倍、1年以内は6.69倍と糖尿病罹患期間が短い患者での膵癌発症リスクが高いことが報告されています2)。糖尿病増悪が診断の契機となったのは4~5%3)。Damianoらは50歳以上の新規糖尿病患者115例にMRIを施行し、12.1%に膵内分泌腫瘍や他癌を含めた異常を認め、5.2%に膵癌を認めたと報告しています4)。

引用:

1) Sharma C, et al. World J Gastroenterology. 2011; 17: 867-897より引用改変

2) Batabyal P, Vander Hoorn S, Christophi C, Nikfarjam M. Association of diabetes mellitus and pancreatic adenocarcinoma: a meta-analysis of 88 studies. Ann Surg Oncol. 2014 Jul;21(7):2453-62.

3) 日本膵臓学会癌登録委員会, 膵癌登録報告2007. 膵臓2007:22:el-427

4) Damiano J, et al. Should pancreas imaging be commanded in patients over 50 years when diabetes is discovered because of acute symptoms? Diabetes Metab 2004; 30: 203-7.

膵癌の血液データ

・膵酵素:膵型アミラーゼ、リパーゼ、エラスターゼ1、トリプシン

  膵癌でのアミラーゼ、エラスターゼ1異常率は20~50%1)

・腫瘍マーカー: CA19-9(70~80%)、Span-1 (70~80%)、DUPAN-2(50~60%)、CEA(30~60%)、CA50(60%)

・StageⅠ膵癌でCA19-9 55.6%2)。Lewis血液型陰性例(日本人  10%)では、Dupan-2が有用とされる3)が2㎝以下の膵癌では37.2%。

・膵癌術後再発、リンパ節転移の予測因子にCA19-9≥200かつSpan-1≥37が報告されています4)。

上記の上昇を認めますが、小膵癌の検出率は低いです。フォローアップ、予後予測、治療効果判定に使われます。

引用:

1)日本膵臓学会膵臓癌登録委員会.膵癌登録2007.膵臓2007:22: el -427.
2) Liu J. Gao J. DUI et al. Combination of plasma microRNAs with serum CA 19-9 for early detection of pancreatic cancer. Int J Cancer 2012; 131: 683-91.
3)江川新一他.小膵癌の全国統計解析.膵臓2004;19;558-66.
4) Shimizu T, Asakuma M, Tomioka A, et al. Span-I and CA 19-9 as predictors of early recurrence and lymph node metastasis for patients with invasive pancreatic cancer after pancreatectomy. Am Surg 2018; 84: 109-13.

膵画像異常所見

・腫瘤像:低エコー腫瘤、EUS最も高感度、小腫瘤は造影CT(単純✕)

・膵管拡張・狭窄:拡張目安3㎜以上、小膵癌では限局性膵管狭窄

・胆管拡張:膵頭部腫瘤による胆管閉塞

・嚢胞:膵癌によって貯留嚢胞、リスクファクターのIPMN

・限局性膵萎縮:Stage0,Ⅰ膵癌で造影CTで42%膵萎縮・脂肪沈着2

引用:1)膵癌診療ガイドライン 2022年版

2)Kanno A et al.; Japan Study Group on the Early Detection of Pancreatic Cancer (JEDPAC). Multicenter study of early pancreatic cancer in Japan. Pancreatology. 2018 Jan;18(1):61-67.

膵癌の原因

膵癌の発生にはいくつかのリスクファクターが関与しています。遺伝的要因、慢性膵炎、糖尿病、喫煙、肥満などがその例です。特に、家族歴(家族性膵癌)がある場合や遺伝性膵炎を持つ人々は高リスクとされています。また、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)という嚢胞性病変が膵癌へと進行することもあります。

膵癌に関連する遺伝性腫瘍症候群

引用:膵癌診療ガイドライン 2022年版

膵癌とIPMN

・IPMNは膵管内乳頭粘液性腫瘍の略で、粘液を産生する腫瘍です。膵癌のリスクで主膵管が拡張したり、分枝膵管が拡張して嚢胞(液体成分のたまり)として画像で描出されます。

・壁在結節を有さない分枝型IPMN349例の自然史を検討した我が国の他施設共同研究では,観察期間中央値3.7年で17.8%に嚢胞径・主膵管径・壁在結節の増大などの形態学的な変化が見られ、そのうちの9例(2.6%)は外科的切除で癌であったと報告されています(IPMN由来浸潤癌).

・またこの研究で7例(2%)がIPMN病変と離れた部位に通常型膵癌が発生していました(IPMN併存膵癌).

・IPMNの経過観察における併存膵癌の検出率は0.2~8.3%.13編の報告を統合すると2.6%であった.嚢胞径の小さな例・多房性嚢胞・膵実質エコー輝度が高い例・70歳以上・糖尿病の悪化・CA19-9が併存膵癌発生の因子であると報告されています。

引用:1)Maguchi Il, Tanno S, Mizuno N, et al. Natural history of branch duct intraductal papillary mucinous neoplastns of the pancreas: a multicenter study in Japan. Pancreas 2011; 17: 738-73.

2)Tada M, Kawabe T, Arizumi M, et al. Pancreatic cancer in patients with pancreatic cystic lesions: a prospective study in 197 patients. Clin Gastroenterol Hepatol 2006; 4: 1265-70.

3)Uehara H, Nakaizumi A, Ishikawa, et al. Development of ductal carcinoma of the pancreas during follow-up of branch duct intraductal papillary mucinous neoplasm of the pancreas. Gut 2008; 57: 1561-5.

4)T, Masuda A, Sakai A, et al. Multifocal cy€s and incidence of pancreatic cancer concomitant with intraductal papillary mucinous neoplasm. Pancreatology 2018; 18: 399-406.

5)Ingkakul T, Sadakari Y, lenaga J, et al. Predictors of the presence of concomitant invasive ductal carcinoma in intraductal papillary mucinous neoplasm of the pancreas. Ann Surg 2010; 251: 70-5.

診断

腹部超音波

・腹部超音波検査は簡便で非侵襲な検査として、外来診療や検診において非常に有用です。

・人間ドックにおける超音波検査の膵癌発見率0.004%と報告されています。膵癌の発見の契機として40.1%。2㎝以下の膵癌は40.5%と高頻度でした。

・超音波のデメリットとしては検査をする人の技術力がもとめられること、膵臓が腸管の空気により見えないことがあること、膵尾部(膵臓の左側)の描出が苦手があげられます。

・膵癌検出につながる間接所見として、主膵管の拡張や小嚢胞が膵癌の前駆所見と考えられ、このような所見がみられた場合は、すみやかにCT検査をはじめとする次のステップへ診断を進めるべきとされます。

まとめ

膵癌は増えてきています。死亡数も増加しています。膵癌は5年生存率がとても低いけれども1cm以下であれば、5年生存率が高いです。1cm以下の膵癌をみつけるために、膵癌のリスクファクターのある人に腹部の超音波で異常所見がないか調べることが早期膵癌をみつけるために重要です。

診断がメインになりました。治療は手術、化学療法、放射線療法、化学放射線療法などいろいろありますが、長くなりましたので、治療については、またの機会にしたいと思います。


書いた人

石井 優

昭和大学 医学部 内科学講座 消化器内科学部門 講師

資格

日本内科学会:認定内科医・総合内科専門医

日本消化器病学会:専門医・指導医

日本消化器内視鏡学会:専門医

日本肝臓学会:専門医

日本腹部救急医学会:認定医

日本膵臓学会:認定指導医

日本胆道学会:認定指導医

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