梅雨入りして雨が降り続いたある日の朝、起きてきた私の息子がこめかみを押さえながら「お父さん、頭痛い……」と呟きました。気圧がぐっと下がるこの時期、大人はもちろん、子供たちも頭痛に悩まされることが少なくありません。
日々内科の診療室に座っていても、雨の日や台風が近づく時期には「頭が痛い」「吐き気がして仕事に行けない」と駆け込んでくる患者さんがいらっしゃいます。日本には慢性的な頭痛に悩む方が約3,000万人いると推計されており、決して「たかが頭痛」と我慢してよいものではありません。
今回は、数ある頭痛の中でも日常生活への影響が大きい「片頭痛」を中心に、最新の医学的知見に基づいた正しい対処法、お薬の選び方、そして明日から食卓に取り入れられる予防効果のある食べ物について、詳しく解説します。
目次
頭痛の時、いつ病院へ行く?
「たかが頭痛」と我慢されがちですが、以下の症状がある場合は、重大な病気が隠れている可能性があるため、早めに医療機関を受診しましょう。
初めて経験する強い頭痛
今までで最悪の頭痛
手足のしびれや話しにくさを伴う
発熱を伴う
50歳以降に始まった頭痛
いつもの頭痛薬が効かない
頭痛の原因と種類:危険な頭痛の見分け方
頭痛は大きく分けて、脳の病気などが原因ではない「一次性頭痛」と、くも膜下出血や脳腫瘍などの病気が隠れている「二次性頭痛」の2つに分類されます。
片頭痛や緊張型頭痛は「一次性頭痛」に当てはまりますが、救急外来や大きな病院を受診しなければならない危険なサイン(レッドフラッグサイン)が存在します。
中でも最も危険なのが、発症から1分以内に痛みがピークに達する「雷鳴頭痛(らいめいずつう)」です。「バットで殴られたような」「今まで経験したことがない」と表現される突発的な激痛で、救急外来を受診した患者さんの約4〜10人に1人で、くも膜下出血などの重篤な病気が見つかります。このような痛みが起きた場合は、迷わず救急車を呼んでください。
危険な病気が隠れていないことを確認した上で、日常的な頭痛の治療へと進みます。
頭痛 病院と検査:頭痛は何科を受診すればいい? MRIは必要?
「頭痛がひどいけれど、何科を受診すればいいのか分からない」と迷われる方は少なくありません。頭痛は、脳神経内科・脳神経外科・頭痛外来が専門です。もちろん、まずは身近なかかりつけの内科でも相談可能です。
画像検査が必要かどうかですが、慢性的な片頭痛では必ずしもMRIは必要ありませんが、初めての激しい頭痛や神経症状を伴う場合には、二次性頭痛を除外するためにCTやMRIなどの画像検査が必要になることが多いです。
梅雨や台風で頭痛が起こるのはなぜ?(天気痛・気象病)
梅雨の時期や台風の接近に伴い、「頭が痛い」「だるい」といった不調を訴える方は非常に多くいらっしゃいます。気圧変化が片頭痛発作の誘因になることは広く知られており、頭痛診療ガイドラインでも誘発因子の一つとして挙げられています。
一方で、その詳しい仕組みは完全には解明されていませんが、気圧変化により自律神経活動が変化することや、内耳が気圧変化を感知することが関与すると考えられています。特に片頭痛体質をお持ちの方は、天候の崩れや温度の急激な変化が重なる梅雨や台風の時期に症状が悪化しやすいため、より一層の注意が必要です。
片頭痛とは? なぜ痛むのか?
日本の片頭痛の年間有病率は約8.4%、およそ840万人の方が罹患しているという全国調査のデータがあります。性別・年代別にみると、特に20代〜40代の女性に多く見られ、働き盛りや子育て世代の生活の質(QOL)を大きく低下させます。
片頭痛の症状は単なる「痛み」だけではありません。「ズキン、ズキン」と心拍に合わせた拍動性の痛みが頭の片側(あるいは両側)に起こり、吐き気や嘔吐を伴うことが特徴です。また、光や音、においに非常に敏感になり(光過敏・音過敏・臭過敏)、普段は気にならない蛍光灯の光やテレビの音がひどく苦痛に感じます。
なぜ片頭痛が起こるのでしょうか。現在の医学で最も有力なのが「三叉神経血管説」です。 ストレス、寝不足、気圧の変化(天候)、女性ホルモンの変動などが引き金となり、脳の太い血管の周りにある「三叉神経」が刺激されます。すると、神経の末端からCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)などの炎症性物質が大量に放出されます。これらの物質が血管を急激に広げ、周囲に強い炎症を引き起こすことで、あのズキズキとした激しい痛みが生じるというメカニズムが分かっています。
片頭痛 治し方:最新のお薬事情
片頭痛の治療は、痛みが起きた時に飲む「急性期治療」と、痛みが起こらないようにする「予防療法」の2本柱で行います。
痛みを鎮めるお薬(急性期治療)
頭痛の程度に応じたお薬の使い分けが重要です。軽症~中等症ではNSAIDs(ロキソプロフェンやイブプロフェンなど)やアセトアミノフェン、強い片頭痛にはトリプタン系薬剤が使われます。 トリプタンは、痛みの原因である広がった血管を元に戻し、神経の炎症を抑える働きがあります。痛みが本格化する前、発作早期のタイミングで飲むのが効果を引き出すコツです。 最近では、トリプタンが効きにくい方や、心血管疾患などの理由でトリプタンを使用できない方向けに、ジタン系薬剤(ラスミジタン)やCGRP受容体拮抗薬(ゲパント系)などの新しい治療薬も登場しています。
痛みを防ぐお薬(予防療法)
月に何日も寝込んでしまうような重症の方には、先ほど原因として挙げた「CGRP」を直接ブロックする「CGRP関連薬(抗体薬の注射など)」が使われるようになりました。発作頻度を劇的に減少させる強いエビデンスがあり、従来の予防薬(バルプロ酸、アミトリプチリン、プロプラノロール、ロメリジンなど)で効果が不十分だった難治例に対しても推奨されています。また、発作回数が多い場合には比較的早い段階から検討されることもあります。
子供、妊娠中、授乳中の頭痛対策
診察室で特によく相談を受けるのが、お子さんや妊婦さん、授乳中のお母さんの頭痛です。大人や非妊娠時とは安全性の基準が大きく異なるため、ガイドラインでも独立した章を設けて解説されています。
子供の頭痛(小児・思春期)
未成年者の有病率は高校生で9.8%、中学生で4.8〜5.0%、小学生でも3.5%と、決して珍しくありません。子供の片頭痛は大人のように何日も続かず、1〜2時間程度で治ることも多いのが特徴です。 痛みが辛い時の第一選択薬は「アセトアミノフェン」や「イブプロフェン」です。また、12歳以上ではスマトリプタン点鼻薬も使用可能です。 なお、大人でよく使われる予防薬についてですが、小児における予防薬のエビデンスは成人ほど十分ではなく、使用は専門医と相談して決定します。まずは規則正しい睡眠、朝食を抜かないこと、適切な水分補給といった非薬物療法としての生活改善が極めて重要です。
妊娠中の頭痛
妊娠中は女性ホルモン(エストロゲン)の血中濃度が安定するため、多くの女性で片頭痛が自然と軽く治まるか消失することが分かっています。 どうしても痛い時に最も安全に飲めるのは「アセトアミノフェン」です。逆に注意が必要なのが「NSAIDs」です。お腹の赤ちゃんの心臓の血管(動脈管)に影響を与える危険性があるため、妊娠中のNSAIDs使用は制限があるため、必ず医師に相談してください。特に妊娠後半期では使用できません。 また、原則としてすべての予防薬(内服薬)を中止することが推奨されます。予防薬の「バルプロ酸」は胎児の奇形リスクが高いため絶対禁忌です。片頭痛予防薬の「ミグシス(ロメリジン)」についても、妊娠中や妊娠の可能性がある場合には使用できません。
授乳中の頭痛
出産後はホルモンバランスの急激な変化や育児疲労によって、片頭痛が悪化しやすい時期です。「母乳をあげているから薬は飲めない」と我慢されるお母さんが多いですが、授乳中は使える薬の選択肢が広がります。 「イブプロフェン」は母乳への移行率が低く、授乳中の鎮痛薬として国際的に推奨されています。また、片頭痛専用の「トリプタン系薬剤」も、母乳への移行量は少なく、多くの場合授乳継続が可能と考えられています。我慢せずに適切な薬を使って、しっかり体を休めることを優先してください。
食事で片頭痛は予防できるか?
日常的に摂取することで「発作を起こりにくくする」エビデンスが確立している栄養素がいくつか存在します。
マグネシウム(大豆製品、海藻、ナッツ類に豊富)
脳の神経の過剰な興奮を鎮める働きがあります。マグネシウムの摂取が片頭痛の予防に有効であることが示されています。豆腐や納豆、わかめなどを毎日の食卓に取り入れてみてください。
ビタミンB2(レバー、乳製品、卵に豊富)
細胞のエネルギー産生を助けます。高用量のリボフラビン(ビタミンB2)の摂取により、片頭痛の発作日数が減少することが実証されています。
オメガ3系脂肪酸(サケ、サバ、イワシなどの青魚)
サラダ油などのオメガ6系脂肪酸を減らし、魚の油(EPAやDHA)を多く摂る食事療法が、片頭痛の軽減に役立つことが報告されています。
逆に「避けるべき」誘発因子となる食材
血管の収縮・拡張に影響を与え、発作の引き金(トリガー)になる成分を含む食材は、個人差はありますができるだけ避けることが推奨されます。
アルコール:血管拡張作用があり、一般的な誘発因子です。
チラミン: 人によっては熟成チーズや赤ワインなどが誘因になることがあります。
亜硝酸塩: ハムやソーセージなどの加工肉の発色剤として広く使用されています。
絶対に知っておくべき注意点(薬の使いすぎによる頭痛)
頭痛治療において患者さんが陥りやすい落とし穴が「薬剤の使用過多による頭痛(MOH:薬物乱用頭痛)」です。 市販の痛み止め(OTC医薬品)が手軽に買えるため、少しでも痛むとすぐ薬を飲み、月に10日以上頻繁に頭痛薬を使用している方がいます。これを繰り返すと、脳が痛みに敏感になり、薬が切れるとすぐにまた頭痛が起きる悪循環に陥ります。
この状態を改善するためには、原因となる薬剤を減量または中止し、予防治療を併用します。薬を減らす過程で一時的に頭痛が辛くなる「離脱頭痛」が起こることがありますが、専門医の元で適切な予防薬を使いながら乗り切れば、多くの方は本来の軽い頭痛へと改善します。
よくある質問(Q&A)
Q. 漢方薬と市販の痛み止めは一緒に飲んでも大丈夫ですか?
A. 大丈夫です。西洋薬との飲み合わせで重大な相互作用が起きることは稀です。例えば「気圧が下がると頭痛がする(気圧頭痛・気象病)」という方には、体内の水分バランスを整える「五苓散(ゴレイサン)」という漢方薬が、気圧変化に伴う頭痛に使用されることがあります。漢方薬は空腹時に白湯に溶かして飲むと吸収が良くなります。痛みが起きてしまった時には、そこにアセトアミノフェンなどを組み合わせて使っても問題ありません。
Q. 頭痛が起きたら、運動して汗をかいた方がスッキリしますか?
A. 片頭痛の発作中は逆効果です。入浴や運動で体を温めると、血管がさらに拡張して炎症がひどくなり、痛みが劇的に悪化します。痛い時は、静かで暗い部屋で安静にし、痛む場所を冷たいタオルなどで冷やすのが正しい対処法です。ただし、発作の起きていない普段の日に「習慣的な有酸素運動」を行うことは、片頭痛の予防に効果があることが分かっています。
まとめ:明日から実践できるポイント
頭痛は目に見えない症状だからこそ、周囲に理解されず一人で抱え込んでしまう方が多い病気です。しかし、医学は進歩しており、正しい診断と治療の選択肢は確実に増えています。
まずは、ご自身の頭痛がいつ、どんな状況で起きたかを記録する「頭痛ダイアリー」をつけてみてください。雨の日に多いのか、寝不足の時か、特定の食べ物を食べた後か。ご自身の「トリガー」を知ることが治療の第一歩です。
当院では頭痛外来専門ではありませんが、片頭痛や緊張型頭痛の診断・治療、必要に応じた専門医療機関への紹介を行っています。もし鎮痛薬を月に10日以上飲んでいる、あるいは頭痛で日常生活に支障が出ているという方は、我慢せずに一度当院にご相談ください。
出典・参考文献
本記事は『頭痛の診療ガイドライン2021』を主たる参考文献として作成しています。
* 『頭痛の診療ガイドライン2021』 監修:日本神経学会・日本頭痛学会・日本神経治療学会、編集:「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会、発行所:株式会社医学書院
Ramsden CE, et al. “Dietary alteration of n-3 and n-6 fatty acids for headache reduction in adults with migraine: randomized controlled trial.” BMJ, 2021.
Schoenen J, et al. “Effectiveness of high-dose riboflavin in migraine prophylaxis: a randomized controlled trial.” Neurology, 1998.
Chiu HY, et al. “Effects of Intravenous and Oral Magnesium on Reducing Migraine: A Meta-analysis of Randomized Controlled Trials.” Pain Physician, 2016.
Hoffmann J, et al. “Weather sensitivity in migraineurs.” J Neurol, 2011.
米国国立医学図書館(NLM)運営 授乳婦と薬物に関するデータベース『LactMed』(授乳中の薬剤安全性基準)
書いた人
石井優
資格
日本内科学会:認定内科医・総合内科専門医
日本消化器病学会:専門医・指導医
日本消化器内視鏡学会:専門医・指導医
日本肝臓学会:専門医
日本腹部救急医学会:教育医
日本膵臓学会:認定指導医
日本胆道学会:認定指導医
がん等の診療に携わる医師等に対する緩和ケア研修終了
医学博士いしい医院 内科・消化器内科総合内科専門医・消化器病学会専門医・消化器内視鏡学会専門医・肝臓学会専門医・リウマチ専門医住所:〒140-0015 東京都品川区西大井3-6-17
電話番号:03-3771-3933
休診日:水曜、土曜午後、日曜、祝日時間 月 火 水 木 金 土 日 9:00 ~12:30 ○ ○ − ○ ○ ○ − 16:00 ~18:30 ○ ○ − ○ ○ − − 品川区西大井・大井・大田区大森山王エリアので内科・消化器内科・健康診断・予防接種・訪問診療などの受診をお考えの方はいしい医院をご利用ください。皆様の身近なかかりつけ医を目指しております。




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