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医療豆知識

熱中症・夏バテ予防によい食事:医学的エビデンスに基づく正しい知識とコンビニ活用術を医師が解説

都内でも次第に気温が上がり、今年も本格的な暑さが近づいてきました。気温だけでなく「湿度」が高くなるこれからの季節は、熱中症のリスクが一段と跳ね上がります。

振り返ると、2025年5月〜9月の熱中症による救急搬送者数は100,510人に上り、調査開始以来、過去最多という極めて深刻な事態となりました。毎年1,000人以上の方が熱中症で命を落とされている現状を重く受け止め、国も2024年4月より「熱中症警戒アラート」の発表基準を見直しています。このアラートの基準には、気温・湿度・日射量などから算出される「暑さ指数(WBGT)」という指標が使われています。

2026年の夏も厳しい猛暑が予想されています。涼しい環境をつくることもとても重要ですが、本格的な夏を迎える前に、暑さに負けない体づくりと正しい予防策を一緒に始めていきましょう。

このコラムでは、最新の公的な予防指針と質の高い医学論文をもとに、熱中症や夏バテ予防に対する食事の「本当のところ」を解説します。ちまたにあふれる誤解を解き、今日からすぐに実践できるコンビニ活用術や、万が一の初期対応もお伝えします。

熱中症対策についてはこちら

そもそも「熱中症」と「夏バテ」は別物です

食事の話に入る前に、とても重要な事実を整理しておきます。「熱中症」と「夏バテ」を混同している方が非常に多いのですが、医学的には全く異なる状態です。

熱中症は、高温多湿な環境に体が適応できず、体温調節のシステムが破綻して起こる「急性の全身障害」です。重症化すると命に関わります。数時間、あるいは数十分という短い時間で急激に悪化するのが特徴です。

一方の夏バテ(暑熱疲労)は、暑さによる自律神経の乱れや、冷たいものの摂りすぎによる胃腸の不調、睡眠不足などが積み重なって起こる「慢性の疲労状態」を指します。

つまり、「夏バテ予防」に良い食事が、そのまま「急な熱中症」を防ぐ盾になるわけではないのです。まずはこの前提を知っておいてください。

医学的に証明されている熱中症予防の食事・栄養戦略

では、熱中症を防ぐために本当に医学的根拠が確立しているものは何でしょうか。「国や学会の指針で推奨されている基本」と、「最新のスポーツ医学研究で判明してきた対策」に分けて解説します。

水分と塩分(ナトリウム)の補給

環境省の「熱中症環境保健マニュアル」や厚生労働省の指針でも基本とされる、熱中症予防の最重要ポイントです。

汗をかくと、水分と一緒に塩分(ナトリウム)も失われます。汗で塩分を失った状態で水だけを飲むと、血液中のナトリウム濃度が低下しやすくなります。また、水だけでは十分な量を飲み続けることが難しくなる「自発的脱水」と呼ばれる現象も知られています。この状態で汗をかき続けると、足がつったり(こむら返り)、けいれんを起こしたりする原因になります。

【実践ポイント】

大量に汗をかく環境では、水や麦茶だけでなく、経口補水液やスポーツドリンクを活用してください。経口補水液は、腸管の「ナトリウム・ブドウ糖共輸送」という仕組みを利用して、水分が効率よく吸収されるように設計された飲料です。

運動直後の「牛乳・乳製品」による暑熱順化

環境省のマニュアルでも、本格的な夏を迎える前に「やや暑い環境で体を動かし、暑さに慣れること(暑熱順化)」が推奨されています。この暑熱順化を食事の面から強力に後押しする手法として、信州大学などの研究グループがエビデンスを出しているのが「牛乳」や「ヨーグルト」などの乳たんぱく質です。

やや息が上がる程度の運動(早歩きなど)を30分ほど行った直後に、牛乳やヨーグルトを摂取します。すると、乳たんぱく質の摂取によって血漿タンパク量が増加し、それに伴って循環血漿量が増えることで、発汗機能や体温調節能の改善につながると考えられています。血漿量が増えると汗をかきやすくなり、真夏でも深部体温の上昇を抑えやすい体を作ることができます。

長時間の作業・運動時の「炭水化物」補給

炎天下での長時間の屋外作業や、スポーツにおいて、適度な炭水化物(糖質)の摂取が労作性熱中症の予防戦略として注目されています。

暑い環境では体は皮膚の血流を増やして熱を逃がそうとしますが、そのしわ寄せとして、胃や腸に向かう血流がガクッと減ってしまいます。これによって腸管バリア機能の低下や、それに伴う全身炎症への関与が示唆されています。

運動中にゼリー飲料などで適切な糖質補給を行うことは、腸管障害や全身炎症反応を軽減する可能性が報告されています。ただし、熱中症そのものの発症を予防することを直接示したエビデンスは現時点では十分ではありません。

夏バテ予防: エビデンスは限定的だが体調管理に役立つ食材

「熱中症を直接防ぐ」というレベルの臨床データには至らないものの、基礎研究(細胞や動物での実験)で暑さへの耐性が示されていたり、夏の激しい疲労を防ぐために有益な食材をご紹介します。

豚肉・うなぎ(ビタミンB1)

ビタミンB群(特にB1)がエネルギー代謝を円滑にし、激しい身体的疲労(暑熱による体力消耗を含む)を有意に軽減することがわかっています。ビタミンB1は糖質をエネルギーに変えるために欠かせない栄養素で、不足するとだるさや疲労感の原因になります。豚肉や大豆製品に多く含まれ、ネギやニンニクに含まれる成分と一緒に摂ることで、体内で利用されやすくなるとされています。

トマト・スイカ(水分・カリウム)

トマトやスイカは水分が豊富なうえ、汗で失われがちなミネラルであるカリウムを補ってくれます。カリウムは細胞内の水分バランスを整えます。また、トマトの赤い色素「リコピン」には強力な抗酸化作用があり、動物実験などにおいて暑さによる細胞のダメージを和らげる効果が報告されています。

梅干し(ナトリウム)

昔からの知恵である梅干しは、手軽な塩分補給として優れています。ただし「梅干しのクエン酸が疲労物質(乳酸)を直接分解するから疲れが取れる」という昔の定説は、現在のスポーツ医学ではほぼ否定されています。「食欲を増進させ、塩分を補給する」という堅実な役割として捉えてください。

忙しい朝に!コンビニで揃う「熱中症予防の朝ごはん」

熱中症予防において「朝食を抜く」ことは好ましくありません。人間は1日に必要な水分の約20〜30%を食事から摂取しているため、朝食を抜くと脱水傾向で1日をスタートすることになります。時間がなくても、コンビニで以下の組み合わせを選んでみてください。

【おすすめの組み合わせ】

鮭や梅のおにぎり + インスタント味噌汁 + ゆで卵(またはヨーグルト)

おにぎりで「炭水化物と塩分」、味噌汁で「水分とミネラル」、ゆで卵やヨーグルトで「タンパク質」を補給できます。特に味噌汁は、塩分とアミノ酸がバランス良く溶け込んだ、日本が誇る優れたスープです。

よく見る「危険な誤解」

患者さんがよかれと思ってやっている「実は危険な対策」を挙げます。

  • 「水分補給は冷たいビール!」

    アルコールには利尿作用があります。特にビールは、飲んだ量以上の水分を尿として体の外に出してしまいます。「水分を摂っているつもりで、実は脱水を進めている」という悪循環に陥るため、これらを水分補給にカウントしてはいけません。

  • 「スイカとそうめんを食べているから大丈夫」

    夏場は食欲が落ち、そうめんだけで済ませる方が増えます。しかし、これでは炭水化物に偏り、筋肉を保つためのタンパク質や、エネルギーを作るビタミンが圧倒的に不足します。結果として体力が落ち、熱中症リスクを跳ね上げてしまいます。卵や肉、ネギなどをなるべくトッピングしてください。

高齢者と子どもの「隠れ脱水」と初期対応

ご家族に高齢の方や小さなお子様がいる場合は、特別な注意が必要です。

  • 高齢者は喉が渇かなくても飲む

    加齢により「喉の渇きを感じるセンサー」が鈍っています。「喉が渇いてから飲む」のでは遅いため、時間を決めて(毎時コップ半分など)水分を摂る習慣が必要です。また、利尿薬や糖尿病治療薬の一部(SGLT2阻害薬)を使用している方では、脱水が進みやすいため注意が必要です。

  • 子どもは地面からの熱(輻射熱)に注意

    子どもは体温調節機能が未発達なうえ、身長が低いためアスファルトからの照り返しを直接受けます。大人の顔の高さが32度でも、ベビーカーの高さでは35度以上になっていることが多々あります。

【万が一、症状が出たときの初期対応】

めまい、立ちくらみ、こむら返り、大量の冷や汗などの症状が出たら、すぐに以下の対応をとってください。

  1. 涼しい場所へ避難: クーラーの効いた室内や日陰に移動します。

  2. 身体を冷やす: 首の太い血管、両脇の下、足の付け根(そけい部)に冷えたペットボトルなどを当てて血液を冷やします。

  3. 水分の補給: 経口補水液を少しずつ飲ませます。

    ※「自力で水が飲めない」「意識がもうろうとしている」場合は、ためらわずに119番通報をしてください。

まとめ

医学的な見地からおすすめする「夏の食事と生活のルール」は以下の4つに集約されます。

  1. 朝食を絶対に抜かない(味噌汁を活用する)

  2. 涼しい時間帯のウォーキング+直後の牛乳で深部体温の上昇を抑えやすい体を作る

  3. そうめん単品は避け、卵、肉、野菜をトッピングして栄養を確保する

  4. 食事を過信せず、室温28℃以下を目安に、暑さを感じる前からエアコンを使用する

熱中症は、正しい知識と準備があれば確実に防げる病気です。「これだけ食べれば安心」という極端な情報に振り回されず、基本に忠実な食事と環境づくりを心がけましょう。

【主な参考資料・出典】

  • 環境省「熱中症環境保健マニュアル 2022」

  • 厚生労働省「熱中症予防のために」

  • 日本スポーツ協会「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」

  • 日本救急医学会「熱中症診療ガイドライン 2024」

  • Nose H, et al. Effects of Yogurt Intake on Cardiovascular Strain during Outdoor Interval Walking Training by Older People in Midsummer: A Randomized Controlled Study. Int J Environ Res Public Health. 2022;19(8):4715.

  • Périard JD, et al. Exertional Heat Stroke: Nutritional Considerations. Exp Physiol. 2022.

  • Costa RJS, et al. Amino Acid-Based Beverage Interventions Ameliorate Exercise-Induced Gastrointestinal Syndrome in Response to Exertional-Heat Stress: The Heat Exertion Amino Acid Technology (HEAAT) Study. Int J Sport Nutr Exerc Metab. 2023;33(4):230-242.


書いた人

石井優

資格
日本内科学会:認定内科医・総合内科専門医
日本消化器病学会:専門医・指導医
日本消化器内視鏡学会:専門医・指導医
日本肝臓学会:専門医
日本腹部救急医学会:教育医
日本膵臓学会:認定指導医
日本胆道学会:認定指導医
がん等の診療に携わる医師等に対する緩和ケア研修終了
医学博士


いしい医院 内科・消化器内科総合内科専門医・消化器病学会専門医・消化器内視鏡学会専門医・肝臓学会専門医・リウマチ専門医住所:〒140-0015 東京都品川区西大井3-6-17
電話番号:03-3771-3933
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時間
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