「子どもが毎日ポケモンばかりしていて、視力や脳への影響が心配…」
「休みの日は一日中ゲームをしていて、運動不足にならないか不安」
私自身も二人の子どもの父親です。子どもたちもポケモンが大好きなので、「ゲームばかりしていないで、外で遊びなさい!」とつい言ってしまうことがあります。
実は、私自身は子どもの頃にポケモン赤・緑がでた世代ですが、ゲームボーイを持っていないため、やったことはありませんでした。しかし、息子たちが『ポケットモンスター ソード・シールド(剣盾)』を遊び始めたのをきっかけに、一緒にプレイするようになり、その奥深さに驚かされた一人です。
子どもと一緒にゲームを進めたり、外に出て『ポケモンGO』で遊んだり、全国各地に設置されているマンホールの蓋「ポケふた」を探しに散歩へ出かけたりするうちに、あることに気がつきました。
「意外と歩く」
「親子で出かける理由になるし、会話が増える」
私は普段、内科医として日々多くの患者さんの診療にあたっていますが、生活習慣病(脂肪肝や糖尿病など)の改善には「歩くこと」が非常に重要だと痛感しています。
実際に、ポケモンGOをはじめとする位置情報ゲームについては、世界中の医学界・公衆衛生学界で数多くの研究が行われ、質の高い論文が発表されています。一方で、ゲームのやり過ぎによる睡眠不足や視力低下など、注意すべき点も報告されています。
この記事では、最新の医学論文などのエビデンス(科学的根拠)をもとに、ポケモンがもたらす「驚きの健康効果」と「知っておくべき注意点」について、中立的な立場から詳しく解説します。
ポケモンGOは本当に健康に良い?(運動不足・ダイエット補助への効果)
「歩くゲーム」の代表格である『ポケモンGO』については、世界中で多くの医学研究が行われています。結論から言うと、「身体活動量を増やし、心身の健康にプラスに働く」というデータが複数報告されています。
歩数は増える?
最も代表的な研究の一つが、イギリスの権威ある医学誌『BMJ』に掲載された論文です。アメリカの若年成人を対象とした調査において、ポケモンGOをインストールした最初の1週間で、1日あたりの平均歩数が955歩増加したと分かっています。
ただし、この効果は長期間そのまま持続したわけではなく、研究では約6週間後には歩数の増加は元の水準に近づいていました。そのため、健康効果を得るにはゲームだけに頼るのではなく、これをきっかけにウォーキング習慣へ結びつけることが重要です。
運動習慣がない人にこそ大きな恩恵
アジア圏のユーザーを対象にした研究(JMIR誌, 2018年)では、さらに興味深いデータが出ています。ゲーム開始後の21日間で、ウォーキングやランニングの距離が平均して18.1%増加しました。
特筆すべきは、「もともと運動習慣がなかった人」ほど、歩数の増加が強く、かつ長続きしたという点です。「健康のために運動しなさい」と言われても動けなかった人が、ゲームの楽しさによって自発的に動き出すという優れた効果が確認されています。
座りっぱなしの時間を減らし、ダイエットを補助する可能性
タイの医学生を対象にした研究(PLOS ONE誌, 2018年)では、激しい運動量そのものは大きく変わらなかったものの、週あたりの「座位時間(座りっぱなしの時間)」が中央値480分から270分へと大幅に減少したと報告されています。
内科医の視点から補足すると、「座りっぱなし」は肥満や脂肪肝、インスリン抵抗性(糖尿病になりやすくなる状態)を悪化させる要因です。直接的なダイエットの特効薬ではありませんが、「座っている時間を減らして外を歩く」ことは、ダイエットや生活習慣病予防を強力に補助してくれます。
高齢者の健康維持・認知症対策への期待
健康効果は子どもや若者だけにとどまりません。日本の高齢者を対象としたランダム化比較試験(JMIR Serious Games誌, 2021年)において、ポケモンGOをプレイしたグループは、プレイしなかったグループに比べて、注意機能や視空間認知といった「認知機能」に改善が見られたと分かっています。
外に出ることで社会的つながりが維持され、幸福感も向上したという報告があり、認知症予防やフレイル(加齢による心身の衰え)対策の一環としても期待されています。
ポケふた巡りは「行動変容」の好例。家族で歩くメリット
全国各地に設置されているマンホール「ポケふた」を探す旅について、それ単体での健康効果を検証した医学論文は現在のところ存在しません。しかし、先日私も子どもたちと一緒に「ポケふた巡り」に出かけた際、その大きなメリットを肌で感じました。
普段なら車で向かうような距離でも、「ポケふたを歩いて探そう」と提案したところ、結果的に長く歩くことになりました。子どもが「疲れた」とこぼしても、遠くに目的のマンホールを見つけた途端、一気に駆け出していく姿を見たのです。
「歩かなければ捕まえられない・見つけられない」というゲーム設計そのものが、人の行動を変えている。これこそが、医療現場で私たちが目指している「行動変容(意識しなくても自然と良い行動をとれるようになること)」の好例だと実感しました。
ポケモンGOを家族でプレイしている親を対象とした調査(JMIR Pediatrics and Parenting誌, 2018年)でも、親自身の適度な運動や余暇の身体活動量が有意に増加したことが報告されています。
ゲームは脳に悪い?家庭用ポケモンゲームの特徴と視力への影響
ポケモンGOなどの屋外ゲームだけでなく、家庭用の『ポケットモンスター』シリーズについても考えてみましょう。
論理的思考や記憶を使う場面が多い
子どもと一緒に『剣盾』をプレイして実感したのは、その戦略性の高さです。属性の相性や特性を記憶し、状況に合わせて戦略を立てるスタイルは、単に画面を眺めるだけの遊びではなく、論理的思考や記憶を使う場面が多くあります。
スタンフォード大学の研究チームが発表した論文(Nature Human Behaviour誌, 2019年)によると、幼少期にポケモンを熱心にプレイした成人の脳を調べたところ、視覚処理エリアに「ポケモンのキャラクターだけに特異的に反応する領域」が形成されていることが判明しました。
(※注意点:この研究は「ポケモンをすると認知機能が向上する」ことを示したものではありません。幼少期の視覚的・インタラクティブな経験が、人間の脳の物理的なネットワーク形成にいかに強い影響を与えるかを示した神経科学のエビデンスです)
視力(近視の進行)への影響と対策
親御さんが最も心配されるのが「視力への悪影響」です。画面を至近距離で長時間見続けることは、子どもの近視を進行させる大きな要因になります。
現在の眼科領域における世界的な知見として、「屋外活動(外で遊ぶこと)そのものが、近視の進行を抑制する」ことが強く支持されています。
家の中でゲーム機を見る時間があるなら、それと同じくらい外に出て『ポケモンGO』や『ポケふた巡り』を楽しむ。このインドアとアウトドアのバランスを取ることが、子どもの目を守るための現実的な対策となります。
Pokémon Sleepは?睡眠への影響と「ゲーム障害」について
ゲームのやりすぎがもたらす最大のデメリットは、睡眠への悪影響と依存のリスクです。
WHO(世界保健機関)は、日常生活に支障をきたすほどの過度なゲームへの没頭を「ゲーム障害(Gaming Disorder)」として国際疾病分類(ICD-11)に認定しています。
また、過度なゲーム依存傾向があるプレイヤーは、心理的ストレスの増加や、夜間に過食してしまう「夜食症候群」と関連があるとする報告もあります(Psychiatry Investigation誌, 2021年)。夜更かしによる睡眠不足は成長ホルモンの分泌を妨げ、子どもの発達に明確な悪影響を及ぼします。
最近では『Pokémon Sleep(ポケモンスリープ)』のようなアプリも人気です。自身の睡眠習慣を見直す良いきっかけになる可能性があります。ただし、アプリ自体の健康改善効果を直接検証した医学的エビデンスは現時点では十分ではありません。あくまでゲームの力を借りて、毎日の睡眠衛生(良い睡眠をとるための習慣)を意識するツールとして活用するのが良いでしょう。
親子で楽しむポケモンのメリットと、医師がすすめる3つのルール
エビデンスと実臨床の視点をふまえ、患者さんにもおすすめしている「健康的にポケモンと付き合うための実践ルール」を3つ提案します。
時間と場所のルールを決める(依存・事故防止)
スクリーンタイム(画面を見る時間)はご家庭で上限を決めましょう。また、歩きスマホによる負傷事故(骨折や頭部外傷)も多数報告されているため、プレイする時は必ず立ち止まるなど、安全第一を徹底してください。
インドアとアウトドアのバランスをとる(近視予防)
家で画面を見た後は、休日に外を歩くなどの屋外活動を取り入れ、遠くを見て目を休ませましょう。
ゲームをコミュニケーションの道具にする
子どもを一人でゲーム部屋に孤立させるのではなく、一緒にプレイしたり対戦について会話したりすることで、親子の社会性や絆を深めるツールとして活用してください。
よくある質問(FAQ)
Q1. ポケモンGOをするだけで痩せますか?
A. ポケモンGO単体で急激に痩せるわけではありません。しかし、論文でも実証されている通り「座りっぱなしの時間」が劇的に減るため、代謝が良くなり太りにくい身体づくり(生活習慣病予防)の補助としては非常に効果的です。食事管理と組み合わせることで効果が高まります。
Q2. ポケモンGOは毎日やった方がいいですか?
A. 無理に毎日やらなくても大丈夫です。週1〜2回の習慣から始めるだけでも十分な運動になります。
Q3. 子どもは何歳からゲームで遊ばせてもいいですか?
現時点では、「何歳からなら安全」という医学的な基準はありません。日本小児科医会は、乳幼児期の長時間のスクリーン利用を控え、家庭で利用時間やルールを決めることを勧めています。年齢よりも、睡眠・運動・勉強・家族との時間に支障が出ない範囲で、保護者が一緒にルールを決めて利用することが大切です。
Q4. ポケふた巡りなどのウォーキングで、カロリー消費はどのくらいですか?
A. 体重や歩くスピードによりますが、大人が1時間(約4〜5km)歩いた場合、およそ150〜200kcal程度の消費になります。カロリー消費そのものよりも、外を歩く習慣による心身の疲労回復や自律神経の安定といったメリットの方が大きいと考えられます。
Q5. 外で遊ぶときの熱中症対策はどうすればいいですか?
A. 画面に夢中になると水分補給を忘れがちです。のどが渇く前にこまめに水分をとる、帽子をかぶる、日陰を利用する、炎天下(特に日中の暑い時間帯)での長時間のプレイは避けるなど、親御さんが意識して声をかけてあげてください。
Q6. ゲームで悪くなった子どもの視力は回復しますか?
A. 眼球が前後に伸びてしまった近視(眼軸長の延長)は、自然には回復しません。だからこそ「それ以上悪化させないための予防」が重要です。近くを見すぎないための時間管理と、屋外活動の習慣化を心がけましょう。
Q7. 歩きスマホはやはり危険ですか?
A. 非常に危険です。海外の救急外傷センターのデータでも、ポケモンGOのプレイ中(歩行中や運転中)の前方不注意による重大な骨折や頭部外傷リスクが報告されています(International Journal of Surgery Case Reports誌, 2020年)。画面を見るときは必ず立ち止まる習慣をつけてください。
まとめ:健康づくりは「続けられる楽しさ」を見つけること
実際の診療では、「運動してください」とお伝えしても、継続できる方は決して多くありません。だからこそ、楽しみながら自然に歩ける仕組みを見つけることが、生活習慣病の予防・改善では何より重要だと私は考えています。
ポケモンGOやポケふた巡りは、運動そのものを目的にするのではなく、「楽しみながら結果的に歩いていた」という状態を生み出します。健康づくりは我慢ではなく、続けられる楽しさを見つけることが何より大切です。
「ゲームばかりして!」と頭ごなしに禁止するのではなく、ルールを決めて外へ持ち出し、親子のコミュニケーションツールとして活用する。ぜひ大人が正しくコントロールしながら、親子で健康的にポケモンを楽しんでみてはいかがでしょうか。
出典(参考医学論文・資料)
Althoff T, White RW, Horvitz E. Influence of Pokémon Go on Physical Activity: Study and Implications. (BMJ, 2016)
Pokémon GO and Physical Activity in Asia: Multilevel Study (Journal of Medical Internet Research, 2018)
Gaming behaviour with Pokémon GO and physical activity: A preliminary study with medical students in Thailand (PLOS ONE, 2018)
PokÉmon GO and Cognitive Function, Physical Fitness, and Social Well-Being in Older Adults: A Randomized Controlled Trial (JMIR Serious Games, 2021)
Pokémon GO Within the Context of Family Health: Retrospective Study (JMIR Pediatrics and Parenting, 2018)
Gomez J, et al. Extensive childhood experience with Pokémon suggests eccentricity drives organization of visual cortex. (Nature Human Behaviour, 2019)
Stevens MWR, Dorstyn D, Delfabbro PH, King DL.
Global prevalence of gaming disorder: A systematic review and meta-analysis.
Australian & New Zealand Journal of Psychiatry. 2021;55(6):553-568.Pokémon GO Addiction and Its Associations with Psychological Distress and Night Eating Syndrome (Psychiatry Investigation, 2021)
Pokémon GO: An unusual cause of trauma (International Journal of Surgery Case Reports, 2020)
書いた人
石井優
資格
日本内科学会:認定内科医・総合内科専門医
日本消化器病学会:専門医・指導医
日本消化器内視鏡学会:専門医・指導医
日本肝臓学会:専門医
日本腹部救急医学会:教育医
日本膵臓学会:認定指導医
日本胆道学会:認定指導医
がん等の診療に携わる医師等に対する緩和ケア研修終了
医学博士
いしい医院 内科・消化器内科総合内科専門医・消化器病学会専門医・消化器内視鏡学会専門医・肝臓学会専門医・リウマチ専門医 住所:〒140-0015 東京都品川区西大井3-6-17
電話番号:03-3771-3933
休診日:水曜、土曜午後、日曜、祝日
| 時間 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 |
| 9:00 ~12:30 | ○ | ○ | − | ○ | ○ | ○ | − |
| 16:00 ~18:30 | ○ | ○ | − | ○ | ○ | − | − |
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