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医療豆知識

脂質異常症(高コレステロール・中性脂肪)とは?2026年最新ガイドラインで変わった治療・食事・薬・新しい薬(ベムペド酸)を徹底解説

健康診断で「コレステロールが高い」「中性脂肪が基準値を超えている」と指摘され、不安を感じた経験はないでしょうか。脂質異常症は、放置すると血管の中で動脈硬化が進んでしまう状態です。

本記事では、日本のガイドライン(動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版)と、2026年に発表された最新のアメリカガイドライン(2026 ACC/AHA Multisociety Guideline on the Management of Dyslipidemia)に基づき、原因、症状、検査、食事・運動、脂肪肝との関係、最新の薬物療法まで分かりやすく解説します。

脂質異常症とは?基準値とLDLコレステロール・中性脂肪の役割

私たちの血液中には、主に以下の3つの脂質が存在します。これらのバランスが崩れた状態を脂質異常症と呼びます。

脂質異常症の診断基準値(空腹時採血)

  • 高LDLコレステロール血症: 140mg/dL以上(120〜139mg/dLは境界域)

  • 低HDLコレステロール血症: 40mg/dL未満

  • 高トリグリセライド(中性脂肪)血症: 空腹時150mg/dL以上(随時175mg/dL以上)

  • 高Non-HDLコレステロール血症: 170mg/dL以上(総コレステロールからHDLを引いた値)

LDLコレステロールとHDLコレステロールの違い

  • LDL(悪玉)コレステロール: 肝臓で作られたコレステロールを全身の細胞に運ぶ役割があります。過剰になると血管の壁に溜まり動脈硬化を進行させます。

  • HDL(善玉)コレステロール: 増えすぎたコレステロールを血管から回収して肝臓へ戻す役割を持ちます。

中性脂肪とは?高くなる原因

中性脂肪(トリグリセライド)は体にエネルギーを蓄える大切な働きを持ちますが、増えすぎると動脈硬化のリスクを高めます。主な原因には、アルコールの過剰摂取、甘いもの(果糖・清涼飲料水等)の摂り過ぎ、脂っこい食事、運動不足、肥満、および遺伝的体質などが挙げられます。

脂質異常症の症状と放置するリスク(動脈硬化との関係)

脂質異常症の症状はある?

脂質異常症の初期段階では、自覚症状はほぼありません。 頭痛や胸の痛みなどの症状が出たときには、すでに動脈硬化がかなり進行しているケースが多く見られます。

放置するとどうなる?

血液中の過剰なLDLコレステロールは血管の内壁に入り込み、プラーク(脂肪の塊)を形成します。プラークによって血管が狭くなり、破れて血栓が起きると血管が閉塞します。これが心臓の冠動脈で起きれば「心筋梗塞」、脳の血管で起きれば「脳梗塞」を引き起こします。

[ 過剰なLDLコレステロール ] ↓ [ 血管の内壁に進入 ] ↓ [ 酸化・炎症反応・プラーク形成 ] (血管が狭く・硬くなる) ↓ [ プラーク破綻・血栓形成 ] ↓ [ 心筋梗塞・脳梗塞の発症 ]

家族性高コレステロール血症(FH)とLp(a)検査

家族性高コレステロール血症(FH)の3本柱

遺伝的な要因で若くからLDLコレステロールが著しく高くなる「家族性高コレステロール血症(FH)」という病気があります。FHの診断は、単に「数値が高い」ことだけでなく、以下の3本の柱で総合的に評価します。

  1. 高LDLコレステロール血症: 未治療時のLDLコレステロール値が180mg/dL以上

  2. 腱黄色腫(けんおうしょくしゅ)など: アキレス腱の肥厚(レントゲンや触診で判定)や皮膚の黄色腫

  3. 家族歴: 2親等以内の血族に高LDLコレステロール血症、または若年性冠動脈疾患(男性55歳未満、女性65歳未満)の患者がいる

注目のリスクマーカー「Lp(a)(リポ蛋白a)」

欧米の主要ガイドライン(ACC/AHAやESC/EASなど)で生涯に一度の測定が推奨されているのが「Lp(a)」という脂質マーカーです。Lp(a)の数値は遺伝によってほぼ決まり、通常のLDLコレステロールが高くなくてもLp(a)が高いだけで心血管疾患リスクが上がることが分かっています。ご家族に若くして心筋梗塞を起こした方がいる場合は、測定を検討することが勧められます。

日本ガイドライン(吹田スコアと総合評価による目標値)

日本の動脈硬化学会ガイドラインでは、一律の数値だけで判断するのではなく、年齢や喫煙、高血圧、糖尿病、慢性腎臓病(CKD)の有無などを組み合わせた「吹田スコア」などを用いて、患者さん一人ひとりのリスクを総合的に評価して目標値を設定します。

【日本(動脈硬化学会2022)の目標値設定の考え方】

  • 一次予防(低・中・高リスク群): 年齢、糖尿病、CKD、喫煙などの危険因子を総合評価し、160mg/dL未満、140mg/dL未満、120mg/dL未満などの段階的な目標値を設定します。

  • 二次予防(心筋梗塞等の既往あり): 再発を防ぐため、原則100mg/dL未満(高リスク条件が重なる場合は70mg/dL未満)を目指します。

2026年 ACC/AHA最新ガイドライン(米国PREVENTスコア)

米国心臓病学会/米国心臓協会(ACC/AHA)などの合同委員会から発表された最新ガイドライン(2026 ACC/AHA/AACVPR/ABC/ACPM/ADA/AGS/APhA/ASPC/NLA/PCNA Guideline on the Management of Dyslipidemia)では、新しいリスク予測モデル「PREVENT」が導入されました。

PREVENTスコアは、心筋梗塞や脳卒中だけでなく、心不全や慢性腎臓病(CKD)の発症リスクも総合的に考慮できるのが特徴です。10年リスクの評価に加え、30〜59歳では30年間の長期的リスクも評価できます。

【アメリカ(ACC/AHA 2026)の目標値設定】

米国ではPREVENTスコアのほか、冠動脈石灰化(CAC)スコアやリスク増強要因を総合評価して治療方針を決定します。高リスクと判断された場合、非常に厳しい目標値が設定されます。

  • 一次予防(高リスク判定時): LDL 70mg/dL未満

  • 二次予防(心血管イベント既往): LDL 55mg/dL未満

  • 超高リスク(複数のイベント既往やCAC>1000等): LDL 55mg/dL未満をさらに厳格に目指す

※日本と米国では「高リスク」の定義や算出基準が異なるため、単純な数値比較ではなく、自身がどのリスク区分に該当するかを担当医と相談することが重要です。

食事療法:コレステロールを下げる食べ物と注意点

生活習慣改善の基本は食事です。2026年ガイドラインでも注目されているのが「超加工食品(UPF:Ultra-Processed Foods)」の制限です。

コレステロールを下げる食べ物(積極的に摂りたい食品)

  • 食物繊維が豊富な食品: 玄米、大麦、海藻、きのこ、野菜類(腸管でのコレステロール吸収を抑制)

  • 不飽和脂肪酸を含む食品: 青魚(サバ、イワシなど)に含まれるEPA・DHA、大豆製品、オリーブオイル

控えたい食べ物・注意点

  • 超加工食品(UPF): 菓子パン、カップ麺、スナック菓子、加工肉(ソーセージ、ハムなど)、清涼飲料水。前向きコホート研究などの観察研究において、心血管疾患リスクとの関連が報告されています。

  • 飽和脂肪酸: 牛肉・豚肉の脂身、鶏肉の皮、バターなどに多く含まれ、LDLコレステロールを上げる原因となります。調理の際はバターよりもオリーブオイルなどの植物油を選ぶのがおすすめです。

  • トランス脂肪酸: 一部の加工食品にはトランス脂肪酸を含むものがあるため、原材料表記などを確認して摂り過ぎに注意しましょう。

運動療法

ウォーキング、水泳、サイクリングなどの中強度以上の有酸素運動を、「1日30分以上、週3〜5日(合計で週150分以上)」行うことが推奨されます。継続的な運動は中性脂肪を減らし、HDL(善玉)コレステロールを引き上げる効果が期待できます。

脂質異常症の治療(薬の種類と最新薬ペムベド酸・インクリシラン)

食事や運動で目標値に届かない場合や、すでに動脈硬化のリスクが高い場合は薬物治療を行います。

主な脂質異常症治療薬の一覧

薬剤名(一般名)LDL低下率の目安特徴・治療上の位置づけ
スタチン約30% 〜 55%肝臓でのコレステロール合成を強力に抑える第一選択薬
エゼチミブ約15% 〜 25%小腸からのコレステロール吸収を阻害。スタチンと併用
ペムベド酸(ネクセトール)約20%肝臓でのみ活性化。スタチンで筋肉痛が出る方に有効
PCSK9阻害薬(エボロクマブ等)約50% 〜 60%皮下注射薬。家族性高コレステロール血症や超高リスク者へ
インクリシラン(レッキビオ)約50%初年度は2回目を3ヶ月後に行い、以降は6ヶ月ごと(年2回)の皮下注射

ペムベド酸(ネクセトール)ってどんな薬?

ベムペド酸は、肝臓でコレステロールが作られるのをブロックし、血液中の悪玉(LDL)コレステロールを減らす新しいタイプのお薬です。

「コレステロールを減らす」という目的は従来のスタチンと同じですが、お薬が体の中で働く仕組みが少し異なります。この「働き方の違い」こそが、ベムペド酸の最大のメリットを生み出しています。

最大のメリットは「筋肉への影響が出にくい」こと

従来のお薬(スタチン)が体に合わない方の多くは、筋肉痛や筋力の低下といった「筋肉に関する副作用(スタチン不耐症)」にお悩みでした。

実は、新しいお薬である「ベムペド酸」は、肝臓の中だけでスイッチが入り(活性化し)、筋肉(骨格筋)では働かないという非常に賢い特徴を持っています。

そのため、

  • 「これまでお薬を飲むと筋肉が痛くなってしまっていた」

  • 「副作用が怖くてコレステロールの治療をためらっていた」

という方でも、筋肉への副作用をほとんど心配することなく、安全に治療を続けられる可能性が高いのです。

どんな人に向いているの?

ベムペド酸は、以下のような患者様に特におすすめできるお薬です。

  • 筋肉痛などの副作用で、これまでのお薬(スタチン)を続けられなかった方

  • 現在のお薬を飲んでいても、目標とするコレステロール値までなかなか下がらない方

  • 遺伝的にコレステロール値が高くなりやすい方(家族性高コレステロール血症)

これまで「自分に合う薬がない」と治療を諦めかけていた方にとって、非常に心強い味方になってくれます。

服用する上で気をつけたいこと(注意点)

どんなお薬にも、メリットがあれば注意すべき点もあります。ベムペド酸を服用する際に気をつけていただきたいのは「尿酸値の上昇」です。

お薬の性質上、血液中の尿酸値が少し上がることがあり、痛風発作のリスクがわずかに高まることが報告されています。(また、非常にまれですがアキレス腱などの「腱断裂」の報告もあります)。

そのため、痛風の経験がある方や、もともと尿酸値が高い方は注意が必要です。お薬を安全に続けていただくために、定期的な血液検査でコレステロール値だけでなく、尿酸値もしっかりとチェックしていきます。

ペムベド酸(ネクセトール)とCLEAR Outcomes試験

2025年に日本でも登場した経口薬ペムベド酸(商品名:ネクセトール)は、肝臓で選択的に作用するため、スタチンで発生しやすい筋肉痛などの副作用が出にくい特徴があります。

スタチンが使えない患者約14,000人を対象とした臨床試験CLEAR Outcomes試験において、ペムベド酸は主要な心血管イベントのリスクを有意に低下させることが示されました。2026年米国ガイドラインでも、スタチン不耐症や目標値未達時の有力な治療選択肢として推奨されています。

脂質異常症の治療にかかる費用目安

通院に必要な概算費用(3割負担の場合)を一覧表にまとめました。

項目内容3割負担での費用目安補足・支払いの特徴
初診料初めて受診した際の基本料金約2,000円 〜 3,000円
再診料2回目以降の受診代(管理料含む)約1,000円 〜 1,500円
血液検査費用脂質項目、肝機能、血糖値などの採血約1,500円 〜 2,500円
スタチン処方代一般的な後発品(1ヶ月分)約300円 〜 600円 / 月
エゼチミブ処方代吸収阻害薬・後発品(1ヶ月分)約500円 〜 800円 / 月
ペムベド酸処方代新薬ネクセトール180mg(1ヶ月分)約3,300円 / 月

インクリシラン処方代

(レッキビオ皮下注)

長期作用型注射薬

(siRNA製剤)

1回あたり 約12万〜13万円

(月額換算:約2万〜3万円程度)

注射を打つ月に支払いが発生。

初年度3回、次年度以降年2回。

※高額療養費制度の対象となる場合があります。

※薬剤費のほか、調剤技術料や処方箋料が別途かかります。

よくある質問(FAQ)

Q1. コレステロールは何歳から高くなりやすいですか?

A1. 男性は30〜40代から肥満や生活習慣の変化に伴い上昇しやすくなります。女性は女性ホルモン(エストロゲン)の分泌低下に伴い、50代前後の閉経期を迎えると急激にLDLコレステロールが上昇する傾向があります。

Q2. 脂質異常症と「脂肪肝」は関係がありますか?

A2. 非常に深い関係があります。脂質異常症や肥満のある方は、肝臓に脂質が溜まる「代謝異常関連脂肪性肝疾患(MASLD/脂肪肝)」を併発しやすくなります。脂肪肝を放置すると肝機能障害だけでなく動脈硬化を促進するため、超音波(エコー)検査などでの評価が推奨されます。

Q3. 脂質異常症は一度改善したら「治る」病気ですか?

A3. 体質や遺伝的な要因が関与している場合、お薬を完全にやめると数値が元に戻ってしまうことがあります。ただし、体重減少や生活習慣の改善によってお薬を減量・休薬できる方もいらっしゃいます。「治す」というより「適正な数値に維持・コントロールし続ける」という捉え方が大切です。

Q4. お酒(アルコール)は飲んでもいいですか?

A4. 特に中性脂肪が高い方は節酒が必要です。アルコールは肝臓での中性脂肪の合成を促進します。飲む場合は適量(1日純アルコール20g程度=日本酒1合、ビール500ml缶1本程度まで)にとどめ、週に2日以上の休肝日を設けましょう。

Q5. 卵は毎日食べてもいいですか?

A5. 健康な方であれば1日1個程度は問題ありません。ただし、高LDLコレステロール血症の方やFHの方は、食事の影響を受けやすい体質(ハイパーレスポンダー)の場合があるため、摂取量を控えめに調整することが望ましいです。

Q6. バターとマーガリン、どちらを選べばいいですか?

A6. コレステロール管理の観点からは、どちらも控えめにするのが原則です。調理の際はバターよりもオリーブオイルなどの植物油を選ぶのがおすすめです。

Q7. コレステロールの薬は飲み始めたら一生やめられませんか?

A7. 必ずしも一生ではありません。体重増加や食生活の乱れが原因であった場合、生活習慣の大幅な改善によって減量・中止できるケースもあります。ただし体質や遺伝要因が強い場合は、血管を守るために継続することが重要です。自己判断で中断せず主治医と相談してください。

Q8. HDL(善玉)が高ければ、LDLが高くても安心ですか?

A8. 極端に高いHDLコレステロールでも安心とはいえません。HDLが高値でもLDL高値による動脈硬化リスクは相殺されないため、両方のバランスを管理する必要があります。

脂質異常症は何科を受診すべき?

健康診断で脂質異常症(再検査・要治療)と判定された場合は、「内科」をご受診ください。

当院でも、採血や吹田スコア等に基づくリスク評価、腹部エコーによる脂肪肝の評価から、食事・運動の生活指導、各種スタチンや新薬ペムベド酸(11月までは新薬より2週間処方)を用いた治療まで一貫して対応しております。健康診断の結果表をお手元にご用意の上、どうぞお気軽にご相談ください。

【出典・参考文献】

  • 日本動脈硬化学会『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』

  • 2026 ACC/AHA/AACVPR/ABC/ACPM/ADA/AGS/APhA/ASPC/NLA/PCNA Guideline on the Management of Dyslipidemia: A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Joint Committee on Clinical Practice Guidelines. Circulation. 2026.

  • Khan SS, Matsushita K, Sang Y, et al. Development and Validation of the PREVENT Equations: A Report From the American Heart Association. Circulation. 2024;149(6):430-449.

  • Nissen SE, Lincoff AM, Brennan D, et al. Bempedoic Acid and Cardiovascular Outcomes in Statin-Intolerant Patients. N Engl J Med. 2023;388(15):1353-1364.

  • 大塚製薬株式会社 添付文書『ネクセトール錠180mg(一般名:ベムペド酸)』


    書いた人

    石井優

    資格
    日本内科学会:認定内科医・総合内科専門医
    日本消化器病学会:専門医・指導医
    日本消化器内視鏡学会:専門医・指導医
    日本肝臓学会:専門医
    日本腹部救急医学会:教育医
    日本膵臓学会:認定指導医
    日本胆道学会:認定指導医
    がん等の診療に携わる医師等に対する緩和ケア研修終了
    医学博士


    いしい医院 内科・消化器内科総合内科専門医・消化器病学会専門医・消化器内視鏡学会専門医・肝臓学会専門医・リウマチ専門医 住所:〒140-0015 東京都品川区西大井3-6-17
    電話番号:03-3771-3933
    休診日:水曜、土曜午後、日曜、祝日

    時間
    9:00 ~12:30
    16:00 ~18:30

    品川区西大井、二葉、大井・大田区山王・馬込・北大森エリアので内科・消化器内科・健康診断・予防接種・訪問診療などの受診をお考えの方はいしい医院をご利用ください。皆様の身近なかかりつけ医を目指しております。

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