芸能人が急性膵炎になったなどニュースになることがありますが、急性膵炎は腹痛や背部痛を伴う疾患で、命にかかわることもあるのでとても怖い病気です。急性膵炎は、いろいろな原因で活性化された膵酵素によって自分の膵臓が消化されてしまい、膵臓やその他の主要な臓器に炎症と障害が引き起こされる病気です。今回は怖い急性膵炎について解説します。
膵臓とは?

膵臓は胃の後ろにある長さ20cmほどの細長い臓器です。黄色で囲まれた部分が膵臓になります。ざっくりいうと右側にある膵臓を膵頭部、真ん中にある膵臓が膵体部、左側にある膵臓が膵尾部といいます。膵臓の働きは主に2つあり消化液(膵液)をつくることと血糖を調節するホルモンをつくっています。作った膵液は膵臓の中の膵管を通って食物が通る十二指腸に流れます。
急性膵炎の統計
2016年本邦の全国調査では発生頻度は、61.8/10万人/年です。男性のほうが女性より多く罹患します。
死亡率は全体で1.8%、重症例 6.1%といわれています。重症急性膵炎の16人に1人がなくなってしまう疾患になります。
急性膵炎の原因
成因 | 頻度 | ||
男性 | 女性 | 計 | |
1. アルコール性 | 42.8% | 12,0% | 32.6% |
2. 胆石性 | 19.8% | 37.7% | 25.8% |
3. 特発性 | 16.2% | 24.8% | 19.1% |
4. 膵癌 | 3.3% | 4.0% | 3.5% |
5. 手術 | 3.3% | 2.7% | 3.1% |
6. 診断的 ERCP | 2.3% | 4.3% | 2.9% |
高脂血症、慢性膵炎、薬、癒合不全、自己免疫性、合流異常など
急性膵炎の原因の1位はアルコールで男性の1位でもあります。急性膵炎の原因の2位が胆石で、女性の原因の1位でもあります。胆石が急性膵炎の原因であり、疑問に思うかもしれませんが、脂肪摂取により胆嚢が収縮すると胆石が胆管に落下します。すると膵管の出口の部位でつまり急性膵炎を発症することがあります。また、急性膵炎の原因で怖いものに膵癌があります。アルコールが原因と思っていたら膵癌のこともあり注意が必要です。中性脂肪が高くても(1000㎎/dL以上の高トリグリセリド血症)急性膵炎のリスクがあるといわれますので、高い場合は薬などで下げる必要があります。
急性膵炎の診断
①上腹部に急性腹痛発作と圧痛がある
②血中または尿中に膵酵素の上昇がある
③超音波、CTまたはMRIにて膵に急性炎症に伴う異常所見がある
上記3項目中2項目以上を満たし、他の膵疾患および急性腹症を除外したもの。ただし、慢性膵炎の急性増悪は急性膵炎に含める。
上記が急性膵炎の診断基準です。腹痛があって、膵酵素(アミラーゼ、リパーゼなど)が高くて、画像所見があれば膵炎です。重症は画像所見で炎症波及が骨盤近くまで行った場合か9項目(採血や状態や年齢)のうち3個以上で重症の診断になります。
急性膵炎の治療
急性膵炎になってしまったら、除痛をし、入院での大量補液を行います。現在は食事が可能であれば、早期の食事が推奨されています。胆管に結石があったり、胆管炎(胆管の感染などによる炎症)を伴っていたら、内視鏡で十二指腸の胆管と膵管の出口を切開し、結石を除去したり、胆管の交通をよくするステント留置を行います。膵炎が落ち着いてから、再発予防のために胆石を胆嚢ごと手術でとる必要があります。
急性膵炎は繰り返すと膵臓の機能が落ち、糖尿病になったり、消化酵素低下による下痢や体重減少がおきます。また、膵炎による臓器や消化管の損傷や膵液の漏れや感染・出血など命にかかわる状態になることがあります。その際にはその治療が必要となります。
急性膵炎後の食事
アルコールが原因であれば、再発の可能性があり断酒が必要です。胆石が原因であれば脂肪をとることにより再度胆石が落下して急性膵炎になる可能性があります。
まとめ
急性膵炎は命にかかわる疾患でアルコールが原因で起きることが多いです。飲酒後や脂肪分摂取後の腹痛や背部痛は膵炎の可能性があるので病院にかかるようにしましょう。アルコールが原因で急性膵炎になってしまったら、残念ですが断酒をするようにしましょう。

書いた人
石井優
資格
日本内科学会:認定内科医・総合内科専門医・指導医
日本消化器病学会:専門医・指導医
日本消化器内視鏡学会:専門医・指導医
日本肝臓学会:専門医
日本腹部救急医学会:認定医
日本膵臓学会:認定指導医
日本胆道学会:認定指導医
がん等の診療に携わる医師等に対する緩和ケア研修終了
医学博士
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