目次
はじめに
お正月といえばお餅ですよね。ただ、正月、特に三が日は「お餅」による救急搬送が一年で最も多発します。お餅による窒息は65歳以上で上昇し始め、80歳代が最も多いです。窒息は命に関わりますし、事前に対策をしておくといいでしょう。
東京消防庁のサイトに食べるときの対策や窒息の応急手当など対策が書かれていますので、ご自身もそうですが、家族や親戚でお餅を食べる予定のある方も確認しておきましょう。
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/nichijo/mochi.html
私自身も年末年始の当直では、お餅による腸閉塞や消化管ステント(十二指腸)の閉塞をきたした方に出会いました。「まさか詰まるとはねー」っとおっしゃって入院されましたので、正月のめでたい時期に楽しく過ごせるように願ってコラムを書かせていただきます。
お餅の特徴
まず、お餅の特徴です。普段私たちが食べている白米(うるち米)と、お餅(もち米)の決定的な違いは、デンプンの「構造」にあります。
- もち米(お餅): アミロペクチン 100%
- うるち米(ご飯): アミロース(約20%)+ アミロペクチン(約80%)
お餅はアミロペクチン100%です。このことがお餅の性質を生み出しています。
- 強烈な粘り気: アミロペクチンは、分子が複雑に枝分かれした構造をしています。これが絡み合うことで、あの独特の強い粘りが生まれます。
- 冷えると石のように硬くなる: お餅は60℃以上では柔らかく伸びますが、体温に近い40℃付近まで下がると急激に硬化し、粘着性が増すことが流動学の研究で分かっています。 口の中(約37℃)に入れた瞬間から硬くなり始め、喉を通る頃には「最も粘着力が強く、変形しにくい塊」へと変化します
- 消化酵素による分解が速い(よく噛めば): 通常のお米(うるち米)は、消化がゆっくりな「アミロース」を20%含みますが、もち米は「アミロペクチン100%」です。アミロペクチンは枝分かれ構造が多く、消化酵素が一気に取り付くため、一気に分解されてブドウ糖になります。お餅は、マラソン前に食べるほど、極めて効率の良いエネルギー源です。
お餅は消化にいい?悪い?
ネットを見ていてもお餅は消化にいいと書かれていたり、悪いと書かれていたり色々なことが書かれています。実際はどうなのでしょうか。
化学的には分解がとても早い
前述したとおり、消化酵素であるアミラーゼ(唾液や膵液に含まれる)がアミロペクチンをすぐに分解します。小腸の消化酵素によりグルコースになり吸収されます。しかし、よく噛まずに飲み込んでしまうと、消化酵素が表面にしか触れられず、中心部が未消化のままとなってしまいます。つまり、よく噛んで細かくなれば吸収にいいといえます。
物理的には分解しやすいとは言えない
お餅は粘調で体内に入ると固くなります。よく噛まないで塊のまま飲み込んでしまうと、消化酵素が表面にしか触れられず、分解されないままとなってしまいます。この固くなったお餅により腸閉塞を引き起こすことがあります。お餅の塊が小さければ減圧治療ですむこともありますが、塊が大きく腸の詰まりが解消されなければ、手術が必要になります。
お餅を食べてはいけない人は?
窒息のリスク
神経疾患、嚥下障害、歯がない、あっていない入れ歯
窒息の一般的なリスクのうち3つは、神経疾患、嚥下障害、口腔の問題(歯が少ないまたは全くない、不安定な義歯や矯正器具)といわれています。脳梗塞や神経疾患におる嚥下障害の方はもちろん、歯がない方や入れ歯があっていない方は餅を食べないほうがよさそうです。その他、肺疾患、アレルギー、アルコール過剰摂取、口腔の手術など様々報告されています。
日本摂食嚥下リハビリテーション学会より認知症、精神疾患、高次脳機能障害など摂食行動の異常(ペーシング、溜め込み、詰め込み、咀嚼を必要とする食品の丸のみなど)を認める場合は、いかなる食事形態であっても窒息のリスクは生じうると報告されています。より安全な食事形態の選択と摂食場面の観察を十分に行うことがです必要になります。
窒息リスクのある食品
食品としては日本の餅、スペインのナッツ、アメリカのホットドッグなどの報告があります。一般的には、大きすぎる食べ物の塊、丸くて滑りやすい食べ物 、円筒形の食べ物または輪切りの食べ物 (ホットドッグ、ニンジン)、硬い食べ物 (キャンディー、一部の果物)、粘着性のある食べ物、繊維質の食べ物、または圧縮可能な食べ物 (ケーキ、パン) などがリスクともいわれています。
参考文献:Risk factors and prevention of choking. Eur J Transl Myol. 2023 Oct 27.
低年齢(特に5歳以下)
小児では、食品による窒息は特に低年齢児で多いことがわかっています(特に5歳以下)。消費者庁の報告によると、2014年から2019年までの6年間に発生した食品による14歳以下の窒息のうち、5歳以下が9割を占めていました。小さなお子さんを持っている方は下記を参照ください。低年齢でのお餅もリスクを伴います。
日本小児科学会より〜食品による窒息 子どもを守るためにできること〜https://www.jpeds.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=123
成人も小児もリスクの高い方にお餅の摂取はお勧めしませんが、リスクに引っかかっていない人でも餅の窒息は起こることがあるため、東京消防庁の餅による事故を防ぐポイントを添付します。応急処置も動画がありますので確認してください。
1 餅は小さく切って、食べやすい大きさにしましょう。
2 急いで飲み込まず、ゆっくりと噛んでから飲み込みましょう。
3 乳幼児や高齢者と一緒に食事をする際は、食事の様子を見守るなど注意を払いましょう。
4 餅を食べる前に、お茶や汁物を飲んでのどを潤しておきましょう。
5 いざという時に備え、応急手当の方法をよく理解しておきましょう。
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/nichijo/mochi.html
お餅による腸閉塞
粘り気や固くなる性質より、お正月に腸閉塞で緊急入院する患者さんが多いです。日本では全ての腸閉塞のうち、食事性腸閉塞の有病率は 0.3~5.9%と報告されています。7割の人が餅を食べた1日以内に腹痛で受診しています。
お餅の腸閉塞リスクの人
お餅は消化されにくい塊になりやすく、小腸の狭い部分に詰まります。注意が必要なのは、咀嚼に問題がある人や消化に問題がある人、開腹手術(特に胃切除術後)の人が多いとされます。腸が狭くなる病気の方も注意が必要です。リスクのある人は食べないか、食べても細かくしたりよく噛む必要があるでしょう。
- 論文:Small bowel obstruction caused by mochi: A case report and literature review (餅による小腸閉塞:症例報告と文献レビュー)
- 出典: Journal of General and Family Medicine (2018)
餅による血糖値上昇
ご飯茶碗1杯とお餅2個は同じカロリーとよく言われますが、内科医として重視するのはカロリーよりもGI値(食後血糖値の上昇スピード)です。前述しましたが、化学的にアミロペクチンは分解されやすいです。
もち米(GI値: 98〜100以上)は、通常米(GI値: 70〜80程度)と比較して、食後血糖値を有意に高く、かつ急激に上昇させると報告されています。高度な糖尿病の方は気を付けたほうがよさそうです。先に野菜やたんぱく質をとってしばらくした後に摂取が望ましいと思われます。
- 論文:Glycemic Index of Glutinous Rice (Mochi) vs Regular Rice (もち米と通常米の血糖応答比較)
- 出典:Asia Pac J Clin Nutr. (2014)
- 試験デザイン: RCT
5. お餅まとめ
これまでお餅の様々なエビデンスがあったと思います。
窒息リスクが高い人である、神経疾患、咀嚼に問題がある、飲み込みに不安がある(よくむせる)、嚥下障害、歯がない、あっていない入れ歯、摂食行動の異常、5歳以下に該当する方は、食べないかお餅風ムースなどの代替品を選んだほうがよさそうです。
腸閉塞リスクの高い人である、咀嚼に問題がある人や消化に問題がある人、開腹手術(特に胃切除術後)の人は食べないか、食べても細かくしたりよく噛む必要があるでしょう。
東京消防庁の提示している5つのポイントも重要です。①餅は小さく切って、食べやすい大きさに。②急いで飲み込まず、ゆっくりと噛んでから飲み込む。③乳幼児や高齢者と一緒に食事をする際は、食事の様子を見守るなど注意を払う。④餅を食べる前に、お茶や汁物を飲んでのどを潤す。⑤いざという時に備え、応急手当の方法をよく理解しておく。
お正月はめでたい日ですが、救急外来が最も混む日でもあります。「自分は大丈夫」と思わず、これら医学的な事実を知った上で、心がけながらお餅を楽しんでください。
何かあったら119番ですが、そうならないことが一番です。良いお年をお迎えください。
書いた人
石井優
資格
日本内科学会:認定内科医・総合内科専門医・指導医
日本消化器病学会:専門医・指導医
日本消化器内視鏡学会:専門医・指導医
日本肝臓学会:専門医
日本腹部救急医学会:認定医
日本膵臓学会:認定指導医
日本胆道学会:認定指導医
がん等の診療に携わる医師等に対する緩和ケア研修終了
医学博士
いしい医院 内科・消化器内科
住所:〒140-0015 東京都品川区西大井3-6-17
電話番号:03-3771-3933
休診日:水曜、土曜午後、日曜、祝日
| 時間 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 |
| 9:00 ~ 12:30 | ○ | ○ | − | ○ | ○ | ○ | − |
| 16:00 ~ 18:30 | ○ | ○ | − | ○ | ○ | − | − |
品川区西大井・大井・大田区大森山王エリアので内科・消化器内科・健康診断・予防接種・訪問診療などの受診をお考えの方はいしい医院をご利用ください。皆様の身近なかかりつけ医を目指しております。




コメント