目次
はじめに
喫煙は呼吸器、心血管、膵臓、皮膚老化、歯周病に悪影響とわかっています。癌のリスクもあります。
内科医として日々、患者さんと向き合っていると、健康のために紙巻タバコをやめて電子タバコに変える患者さんや知人の医師でも加熱式タバコに変えた方を多く目にします。以前は、加熱式タバコ・電子タバコのデータがなく、良いか悪いかの判断は難しい状況でしたが、現状は違います。
今回は、電子タバコについて、世界の研究を踏まえて皆さんに分かりやすくお伝えします。
加熱式タバコと電子タバコの違いは?
混同されやすいこれら二つの違いを整理しましょう。
- 加熱式タバコ(IQOS、Ploom、gloなど) 日本の主流です。タバコの葉を燃やさずに加熱し、ニコチンを含むエアロゾルを吸入します。「紙巻きタバコの進化版」と言えます。
- 電子タバコ(VAPEなど) リキッド(液体)を電気で加熱し、その蒸気を吸います。日本ではニコチン入りの販売は禁止されていますが、海外ではニコチン入りが一般的です。
どちらも「煙ではなく蒸気を吸う」という点は共通していますが、本質的には「化学物質を肺の奥へ届ける装置」ともいえます。
生活習慣病と電子タバコの意外な関係
タバコは肺の病気というイメージがありますが、内科医として特に警告したいのは、高血圧や糖尿病などの生活習慣病への悪影響です。
高血圧と動脈硬化
加熱式タバコでも、ニコチンによる血管収縮作用は健在です。吸った直後から血圧は上昇し、心拍数は増加します。これを毎日繰り返せば、血管の壁は厚く硬くなり、動脈硬化が進行します。
糖尿病・血糖値への影響
ニコチンは「血糖上昇因子」です。 ニコチンが体内に入ると、交感神経が刺激され、アドレナリンが放出されます。これが肝臓からの糖の放出を促し、さらにインスリンの働きを妨げる「インスリン抵抗性」を引き起こします。
最近の大規模なデータ解析では、電子タバコの使用者は、非使用者に比べて糖尿病予備軍(前糖尿病)になるリスクが高まることが示唆されています。
コレステロールへの影響
ニコチンは脂質代謝の天敵です。ニコチンにより内臓脂肪の増加の可能性や悪玉の増加と善玉の減少・酸化LDLの生成により血管壁にプラークを作ります。
最新エビデンスが示す健康被害(臓器別)
PubMed(国際的な医学論文データベース)に報告されている最新知見をもとに、具体的なリスクを解説します。
循環器系(心臓・血管)
心筋梗塞や脳卒中のリスクは、非喫煙者より有意に高いです。 心拍数や血圧を上昇させ、動脈硬化を促進します。電子タバコに含まれるニコチンや微粒子は、吸入直後から交感神経を刺激し、血管を収縮させます。長期的な使用は「血管のしなやかさ」を失わせ(血管内皮機能障害)、心筋梗塞などのリスクを高めることが示唆されています。
- エビデンス: 2025年のメタ解析(複数の研究を統合した信頼性の高い研究)では、電子タバコの吸入直後に血圧と心拍数が有意に上昇することが再確認されました。
- 論文: Cardiovascular health effects of vaping e-cigarettes: a systematic review and meta-analysis (2025)
- エビデンスレベル: メタ解析(最高レベル)
呼吸器系(肺・気道)
喘息、COPDのリスクを高め、肺の防御機能を壊します。
電子タバコや加熱式タバコから出る蒸気にはグリセリンやプロピレングリコールといった添加物、そして香料が含まれています。これらを加熱して吸い込むと、肺の奥深く(肺胞)で炎症が起こることが分かってきました。
2023年の研究(レビュー)では、加熱式タバコが肺の免疫機能を弱め、風邪や肺炎などの感染症にかかりやすくなる可能性も指摘されています。
- 電子タバコ使用者は、非使用者に比べ呼吸器症状のリスクが約1.9倍になるという報告があります。
- 論文: Evidence update on the respiratory health effects of vaping e-cigarettes (2025)
- エビデンスレベル: 系統的レビュー(最高レベル)
発がん性とその他の毒性
DNA損傷を引き起こす物質が含まれており、長期的な発がんリスクは否定できません。 紙巻きタバコと比較すると発がん性物質の種類や量は少ないものの、ホルムアルデヒドや重金属(ニッケル、スズ、鉛など)が含まれており、細胞レベルでのDNA損傷が確認されています。
- 根拠となるエビデンス:
- E-Cigarettes and Associated Health Risks: An Update on Cancer Potential (2023): 電子タバコのエアロゾルにDNA損傷を引き起こし、肺や膀胱がんのリスクを高める可能性のある化学物質が含まれていることが報告されています。
- Health effects of electronic cigarette use on organ systems (2021): 重金属の曝露レベルが紙巻きタバコより高いケースもあり、腎臓や口腔への悪影響も指摘されています。
併用(電子タバコと紙タバコ)のリスク
最も危険なのが、紙タバコと加熱式タバコを使い分ける併用です。 本数を減らしているから大丈夫と思われがちですが、研究では併用している人の死亡リスクは、紙巻きタバコのみを吸っている人と変わらないことが分かっています。電子タバコへの完全移行が死亡を減らすかどうかは今後わかる
- 論文: Association of cigarette and electronic cigarette use patterns with all-cause mortality: A national cohort study of 145,390 US adults(2024)
- エビデンスレベル: 大規模コホート研究(高レベル)
加熱式タバコの妊娠と胎児の影響
加熱式タバコは紙巻きタバコと同様に、胎児の発育不全や母体の妊娠合併症のリスクを明確に上昇させるというエビデンスが報告されています。紙巻きタバコより害が少ないと謳われることがありますが、妊娠中においては安全な代替品ではないことが複数の研究で示されています。
胎児の発育への悪影響
加熱式タバコを使用している妊婦から生まれた赤ちゃんは、非喫煙者に比べて小さく生まれるリスクが約2.5倍になります。
妊娠高血圧症候群のリスク
加熱式タバコ使用者は、非喫煙者に比べて妊娠高血圧症候群を発症するリスクが2.48倍高いことが示されています。
小児期のアレルギー疾患リスク
生まれた後の子供の健康への影響も報告され始めています。妊娠中に加熱式タバコを使用していた母親から生まれた子供は、非使用者の子供に比べてアレルギー疾患を持つ割合が約1.9倍高いという報告があります。
加熱式・電子タバコの副流煙の影響
加熱式・電子タバコからも有害物質は排出されています。
これを「受動曝露(受動喫煙)」と呼びます。 目に見える煙がなくても、吐き出した息にはニコチン、微細な粒子、ホルムアルデヒドが含まれています。実際に、家庭内で加熱式タバコが使用されている場合、非喫煙者の家族の尿からニコチン代謝物が検出されることが証明されています。
特に子供やペットは、床に近いところで生活しているため、壁や家具に付着した残留物質(三次喫煙)の影響も受けやすいのです。
まとめ
加熱式タバコ・電子タバコは紙タバコのように体に有害と思われます。
紙タバコより電子タバコの方がましかどうかはまだ詳しくわかってはいませんが、良いものではなさそうです。自分だけではなく、周りの人にも影響があり、吸う場所に気を付けたほうがよさそうです。
加熱式タバコ・電子タバコだと安全というわけではありません。禁煙を心がけましょう。
書いた人
石井優
資格
日本内科学会:認定内科医・総合内科専門医・指導医
日本消化器病学会:専門医・指導医
日本消化器内視鏡学会:専門医・指導医
日本肝臓学会:専門医
日本腹部救急医学会:認定医
日本膵臓学会:認定指導医
日本胆道学会:認定指導医
がん等の診療に携わる医師等に対する緩和ケア研修終了
医学博士
いしい医院 内科・消化器内科
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